プーチン大統領の求める停戦条件を探る必要性

伊藤(海) なるほど。確かに海・空軍は、「敵艦を破壊しろ」「敵機を落とせ」だから目標が明確ですね。でも、戦争の結果として島をひとつ手に入れたとしても、その住民たちが味方になるか、ならないかでエンドステートは違うわけでしょう。土地を手に入れたところで、住民たちが敵に回ったら全く意味がないかもしれない。そういう事情もあるから、陸上戦ではこの「エンドステート」という用語がよく出てきますよね。

小野田(空) 結局、陸上戦闘が戦争全体を支配してしまう、ということですよね。だから、海軍も空軍もその意味では、戦いの目的なりエンドステートなり、どのように寄与するか、どのように貢献や援助をするかが、軍種の特性になってくるわけですね。

小川(陸) カール・フォン・クラウゼヴィッツ(19世紀プロイセン王国の軍事学者)が言うように、戦争というのは「政治的手段とは異なる手段による政治の継続」であり、その政治目的をどのように達成するかが問われます。国家目的である政戦略と戦術レベルとを結びつけるものが「作戦術」です。

アメリカ陸軍は、ベトナム戦争後に戦略を戦術レベルに落とし込む「作戦術」という軍事作戦の指導技術を編み出しています。アメリカはベトナム戦争において、ほとんど全ての戦術レベルの戦闘では勝利を収めながらも、戦略レベルでは国家目的を失ったかのように迷走していました。この戦術と戦略の両者間をしっかりとつなぐ必要があることから、その作戦術を編み出したわけです。

一方で、ロシアは1920年代から、この作戦術の確立にかなり力を注いできました。近代的な作戦術を最初に発明したのはソ連だと言われています。今、ロシア軍は「戦闘が下手だ」「戦車を失った」などといろいろなことを言われていますが、これらはある意味、戦術レベルや戦闘レベルでの評価です。

それよりも注目すべきは、個々の戦闘がプーチン大統領の求める停戦条件にどのように寄与していくのか、ということです。この観点から判断するには、作戦レベルでの評価をする必要があります。

そのためには、今後のロシア陸軍が行うべき基準となる軍事的エンドステート、すなわち特別軍事作戦の目的であるルガンスクやドネツク、クリミア半島を確保するためには、どこの地形まで奪取すれば安定的に防御して、目的の3地域を確保することができるかを考えます。その基準となる軍事的エンドステートを考えたうえで、現在のロシア地上軍の行動とを比較して評価するべきです。

▲クルガン機械工場で開発された歩兵戦闘車BMP-3 写真:Vitaly V. Kuzmin

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