ロシアは航空機を失うことを恐れている?
桜林 イギリスの国防省は4月27日の時点で、まだウクライナが大半の制空権を守っていると報告していますが、どうご覧になっていますか。
小野田(空) それについては間違いありません。4月に入ってすぐにアメリカの雑誌がウクライナの「MiG-29」のパイロットをインタビューしました。そのパイロットは、東部のドネツク、ルガンスクの一番厳しい地域では、制空権の多くをロシアに取られていると話していました。当時の状況からして、それはあながち嘘ではないだろうと思います。
では、現在はどうなっているかというと、4月25日付で、MiG-29の別のパイロットがアメリカのNBC(米国三大テレビ局のひとつ)の10分ほどのインタビューに出ています。だいたい同じことを言っているのですが、制空権の話には触れていません。
その彼が言うには、ほとんどのロシア機はロシア国内から離陸して、ロシア国内に帰っていくそうです。ロシア軍機はウクライナ国内で離発着をしていない。同様のことをアメリカの国防総省もイギリスの国防省も言っています。
もうひとつ重要な証言として、彼は「巡航ミサイルなどのミサイルは、カスピ海方面から飛んできている」とも言っていました。つまり、ロシア軍は脅威圏外の場所から「スタンド・オフ」攻撃(敵の反撃を受けない離れた場所からの攻撃)を行っているのです。
ここからロシア側が、自分たちの航空機を失うことに対して、非常に慎重になっていることがわかります。
実際、ウクライナ上空にはロシア軍の戦闘機がけっこう飛んでいるのですが、先ほど言った通り、それらはすべてロシア国内で離発着しています。おそらくサポートとして、空飛ぶレーダーサイトである早期警戒管制機「A-50(AWACS)」からさまざまな航空情報が戦闘機に伝えられ、なるべく自分の身の安全を確保しながら飛んでいるのだと分析できます。
ウクライナの戦闘機ではロシアの戦闘機に勝てない?
桜林 ウクライナ側もしっかりと情報を持っていて、防空に成功しているということですね。
小野田(空) そうですね。ウクライナ側の防空体制としては、相変わらず地対空ミサイルが活躍しています。
ただし、彼らの「悲痛な叫び」をあえて申し上げると、戦闘機がだいぶ消耗してきています。3月10日時点で56機残っていると前にお話しましたが、あれから2カ月近く経っているので、下手をすると30~40機になっている可能性もある。破壊されなくても、やはり故障は出ますし、かなり減耗していると思います。それに関する詳しい数字はどこにも出てきていませんが。
それともうひとつ、実際に乗っているパイロットが言っているのは、ロシアの「Su-34」や「Su-35」という最新の長距離戦闘爆撃機は、高性能のレーダーを持っていて、空中戦をやると、まずウクライナの戦闘機では勝てないということです。
たとえば、ロシアの戦闘機は「アクティブホーミング(ミサイル誘導方式)」という、いわゆる「撃ちっ放しミサイル」を撃つことができます。このミサイルは、撃てばすぐにその場から逃げられる。それに対して、ウクライナの戦闘機のミサイルは「セミアクティブ」なので、最後まで目標に対して自分の飛行機のレーダーを当てておかなきゃいけない。ミサイルの射程もロシアのほうが長い。
そのため、空中戦になるとウクライナ側は圧倒的に不利です。だからこそ、アメリカの戦闘機の「F15」「F16」「F18」を供与してくれ、と悲痛の叫びをあげているわけです。そこには2つの含意があって、性能的に負けているということがひとつ。もうひとつは、機数がかなり厳しくなってきているということです。
桜林 空の戦いの視点からすると、航空優勢をとるためには、やはり性能の高い航空機が必要だというのは、普遍的な世界共通の概念なんですね。
小野田(空) そうですね。ですから、ウクライナとしては戦闘機による防空体制を維持することで、ロシア軍機がウクライナ領空内に入って来られなくなるシチュエーションを持続する必要がある。
一方、ロシア空軍は、地上軍への近接航空支援として、ウクライナの地上部隊や都市に対して戦闘機が空爆を仕掛けているわけです。前線が前に進むと、今度は空爆する戦闘機の被撃墜リスクが高くなる。ウクライナの地対空ミサイルや戦闘機にやられる可能性が増すからです。やはり、ウクライナとしては高性能の戦闘機はいくらあっても足りない状況である、と理解すべきです。
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