10月13日にもウクライナ南部や中部の40か所以上で、ロシア軍がミサイル攻撃を行うなど、市民の被害が増えている。これを受けて、ウクライナ軍も反撃の勢いを強め、今なお予断を許さない状況が続いている。

今回のニュースを見る限り、陸だけではなく、空中戦でもロシアの激しい攻撃に苦しんでいるように見えるウクライナ。しかし決して劣勢というわけではなく、SNSを巧みに活用した情報戦を行ったり、制空権は未だにウクライナが優勢であると、軍事のプロフェッショナルである小川清史元陸将、伊藤俊幸元海将、小野田治元空将は説明します。

ただ、そこにはウクライナ側の戦闘機がかなり消耗してきているという現状もあるそう。防衛問題研究家の桜林美佐氏の司会のもと、現状と懸念点を語り合います。

※本記事は、インターネット番組「チャンネルくらら」での鼎談を書籍化した『陸・海・空 軍人によるウクライナ侵攻分析-日本の未来のために必要なこと-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

戦力で圧倒的に不利なウクライナは「情報戦」で対抗

桜林 ところで、Twitterなどで動画も上がっているようですが、5月には黒海のスネーク島付近に停泊していたロシアの揚陸艦が爆破されたというニュースがありました。ウクライナ政府の発表によると、以前話題にあがったバイラクタルというドローンで攻撃したという話ですが、これについてはいかがでしょうか。

▲トルコ空軍のバイラクタル「TB2」 写真:Bayhaluk

伊藤(海) この揚陸艦は、いわゆる「舟艇」といって、防御能力のない小型の船舶です。呉総監時代には、私も隷下部隊がこの舟艇は持っていました。対空能力もないので、別に爆破することは難しくありません。第二次世界大戦の上陸作戦で使われていたような船です。

ただ、ご承知の通り、スネーク島はウクライナが死守しながらもロシアに取られてしまったところです。当初はウクライナ兵がそこで玉砕したと思われていたけど、実は生きていた、という報道もありましたよね。そうした一連の流れを踏まえれば、その島に停泊していたロシア船を爆破したということは、ウクライナ側の反攻作戦が徐々に始まっていると見てもいいのでしょう。

▲スネーク島(ズミイヌイ島) 写真:Фотонак

桜林 この非常に象徴的な場所であるスネーク島を、ウクライナの戦闘機が空爆しているという情報もありますが。

小野田(空) その様子は、ウクライナの国防部が自ら画像付きで発表しています。現在2つの動画が発表されていて、1つはバイラクタルが地上に駐機してあるヘリコプターを誘導爆弾で爆破している場面。

もう1つは、「Su227」という戦闘機2機で、おそらく無誘導の爆弾だと思いますが、実際に空爆している場面です。後者は赤外線画像なので、おそらくバイラクタルのIR(赤外線)カメラで上から撮影したものだと思いますが、それがTwitterで流れていました。

▲ウクライナ空軍のSu-27UB 写真:користувач:Вєталь

それを追認するかのように、アメリカの国防総省は「スネーク島の3か所ぐらいを目標にして攻撃がなされたようだ」とコメントしています。ただ、その目的については一切分析がなされていません。

おっしゃる通り、スネーク島は「象徴的な場所」ですから、そこでウクライナ側が反撃に出ている画像を発信することで、ウクライナ国民の士気を鼓舞することができます。同時に、ウクライナがしっかりと戦っているという印象を、世界に向けてもアピールできる。そういう意味のほうが大きいんじゃないかと私はみています。

桜林 ウクライナ側はTwitterなどSNSをかなり活用して、動画や画像を流しながら情報戦を戦っています。むしろ映像を見せるための攻撃などもありそうですね。

小野田(空) ウクライナはそれを多用していますよね。上手に情報戦を戦っている。