妹の妊娠と国際結婚で突如おじに

母方のおばあちゃんが亡くなった頃、俺の妹は世界一周をする豪華客船で、通訳のスタッフとして働いていた。妹は、おばあちゃんの死に目にも会えず、葬式にも参加できなかった。

子どもの頃から学校の成績は優秀で、アメリカ留学経験もあった妹は英語がペラペラだった。それを生かして、世界のいろんな国を回れる通訳になりたかったようだった。

▲お互いたった一人の兄妹

おばあちゃんの喪が明けた頃、妹が帰ってきた。同じ船で通訳として働いていたイギリス人の男性とお付き合いをしているという。以前にもアメリカ人の彼氏を連れてきたこともあったし、さほど驚きはしなかったが、そのイギリス人の彼氏は通訳をしているだけあって日本語もペラペラだった。

感じのいいイギリス人青年で、俺が「ジャパニーズコメディアンだ」というと、彼は「素晴らしい職業ですね」と褒めてくれた。俺もそう思う。ただし、売れていればの話だが。

しばらく経つと、妹は海外青年協力隊で、また海外に行きたいと言い出した。なんでも2年間、海外の貧しい国に行きボランティアで仕事をするんだとか。可愛い娘を2年も海外に行かすのは親も心配だったのだろう。家族4人、水入らずで送別会を開くことになった。生き別れになるわけでもないのに、元気でやるんだよと声をかける両親。なんともしんみりとした会だったのを覚えている。

▲妹の成人式も祝った

妹が日本を出国して数週間経ったくらいだろうか。母親から電話がきて、妹が妊娠していることを知らされた。電話越しに話す妹は随分と動揺していたようで、母親は落ち着かせるのにひと苦労だったらしい。

その話を聞いたとき、俺はイギリス人の彼氏がびっくりして逃げ出すんじゃないかと心配になった。妹は産みたいと言ってるようなので、シングルマザーになるのか、俺もおじさんになるんだなぁとぼんやりと思った。古き昭和人間の父親は「一度しか会ったことがない外国人とのあいだに生まれた子どもを、はたして可愛がれるだろうか」と随分悩んでいたらしい。

さて、妹のおめでたを知ったイギリス人青年は、子どもができたことをとても喜び、籍を入れることを提案してくれた。この時、俺は30歳、妹は27歳。

出産の日は、両親ともソワソワしていたと思う。俺も緊張していた。生まれたのはカワイイカワイイ女の子だった。俺の姪っ子だ。

ただでさえ子ども好きの俺にとって、血のつながった姪っ子はメチャクチャ可愛かった。生まれたての赤ちゃんを緊張しながら抱っこした。いい香りがした。父親も小さい赤子を目尻にシワをよせながら慈しむような目で見ていた。あれほど心配していたのが嘘のようだ。

姪っ子が生まれて1年経った頃、妹夫婦はイギリスで式をあげた。カンタベリー大聖堂という歴史ある教会での結婚式だった。華麗なウエディングドレスを着て教会に入場してくる妹を見て、大人になったんだなぁと当たり前のことを思った。そして、子どもの頃からの思い出が走馬灯のようによみがえった。赤ちゃんだった妹、泣き虫だった妹、ずっと俺のあとをついてきた妹。感動して静かに胸が震えていた。

▲左上から時計回りで妹、義理の弟、俺、父、姪、母

祖母の死、そして結婚。人生には別れもあれば出会いもある。この先、俺はどんな人生を歩んで、誰と出会い、どんなふうに死んでいくのだろう。そんなことを思った。

(構成:キンマサタカ)

『TAIGA晩成 ~史上初! 売れてない芸人自伝~』は、次回9/16(金)更新予定です。お楽しみに!!


プロフィール
TAIGA(たいが)
1975年生まれ。神奈川県出身。2005年『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』(フジテレビ)、2009年『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)、2009年の『あらびき団』(TBS)、2014年の『R-1』決勝進出でプチブレイク。下積み時代が続く中、2020年の『オードリーさん、ぜひ会ってほしい人がいるんです。』(中京テレビ)、2021年の『アメトーーク!』(テレビ朝日)出演で再ブレイクの予感がする46歳。Twitter:@TAIGAtrendy