片手でできなきゃ口を使う「なにくそ根性」
僕は包丁を定期的に研ぐ。ホルモンは大きい包丁を使って、その重さで切るんだ。レバーの仕上げはスッと引いて切る。
切り口が味を左右するから、包丁の切れ味は大事だ。特に僕の場合は、切れ味がちょっとでも悪くなると、そのぶん負担がかかるから、包丁の刃には常に気を配ってきた。
だから包丁はどんどん短くなっていく。今はちょっと短いかな。調子がいいのは買ってから2〜3年くらい。研げば研ぐほど短くなる。包丁なんて、高いの買っても毎日使うから安いもんだと思うよ。
修行を始めた頃は、包丁も研げなかった。片手が悪いから、うまく押さえることもできなかったんだ。
それに、ホルモンを入れてある大きなビニール袋を開けるのもできなかった。固く結ばれたビニール袋って開けるのに難儀するだろう。最初はどうやって開けたらいいか途方にくれたもんだ。
でもさ、すぐに口を使って開ける方法にたどり着いた。見た目は少々悪いけど、手と歯を使えば一人でも開けられる。こうやって工夫してきたんだ。
もちろん何をするにも、慣れるまでに時間がかかるよ。でも、できるようになると面白くなってくる。やればできるってことに、だんだん気づいていくんだよね。苦労してでも、自分一人でできるようになる、それだけでうれしいんだ。
だから、僕はいろんな人に言うようにしている。「できないんじゃない、それはやらないだけ。とにかくやりなさい」って。
自分はできる、乗り越えられる、常にそう思ってなさいって人には伝えている。やってできないことはないんだから。
僕がこんなハンディキャップを背負ってるって知らない人も多い。まぁわざわざ自分から言うことじゃないしね。僕の働く姿がテレビで放映されたときは、「僕のおかげでやる気になった」って障害者の方もいたんだって、そんなうれしい話を聞いたよ。
この前は、富山からわざわざ僕に会いに来た人がいたね。一緒に写真を撮って、「感動した」って言ってくれた。「まだまだ自分なんて努力が足りない」って思ったって。本当にありがたい話だよね。
僕はね、「ハンディキャップがあるからできない」とは絶対に思わない。できないことなんてないと思うんだよ。どんなことでも、やる気があるかないか。最初から諦めているようではダメだよ。チャレンジしないと。
でも、僕がそんな心境に達するまでは、長い長い時間がかかったからね。「なんで僕だけ右手が」ってクヨクヨ思ってたこともあった。
他人と比べて、恵まれていたことがあるとしたらこの性格かな。いつも陽気な性格だって言われるよ。嫌なことも寝たら忘れちゃう。こればかりは努力でどうなるもんでもないからさ。