NHK『プロフェッショナル』で取り上げられたのが、「総理大臣も並んだ」「開店2時間前から行列ができる」と数々の伝説を持つ、足立区鹿浜にある、行列が絶えない焼き肉の名店・スタミナ宛。

右手に障害を抱えながらも、圧倒的なうまさのホルモンを武器に、スタミナ宛を一流店に育てた店主・豊島雅信氏。彼は「昔はホルモンの地位が高くなかった。だからさ、こんなうまいもんがあるんだってことを、世の中に教えたい、広めたいと思った」と語る。そこで彼が向き合ったのは、徹底的にホルモンの仕込みにこだわることだった。

※本記事は、豊島雅信:著『行列日本一スタミナ苑の繁盛哲学 -うまいだけじゃない、売れ続けるための仕事の流儀-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ホルモンを制するものが焼き肉業界を制する

年とともにそんなに量は食べられなくなったけど、今だってホルモンが好きだね。特にシマチョウが大好きだ。塩味で酒を飲んで、タレ味でごはんを食べるのがいいね。

昔はホルモンの地位が高くなかった。だからさ、こんなうまいもんがあるんだってことを、世の中に教えたい、広めたいと思った。

店を始めた頃から、「ホルモンを制するものは、この業界を制する」って僕は思ってた。いや、「そうしてやる!」って気持ちがあったっていうほうが正しいかな。

実際にその時代が来た。

だから、レバーをさばくときに手は抜かない。レバーの塊を目の前に置いて、最初に包丁を入れる場所は決まっている。それは経験から学んだものだね。外からは見えない筋や血管が残っていると食感が悪くなるから、それを全部取り除く。あとは延々と、その繰り返し。そうすればスタミナ苑の看板メニューの出来上がりだ。

▲0時過ぎに始まる仕込み風景(撮影:キンマサタカ)

15歳からこの道に入ったけど、忙しくなってからホルモンの仕込みに、さらに徹底的にこだわり出したね。どうさばいて、どう仕込んだらうまくなるのかって、それだけを考えてきた。

今じゃ信じられないけど、食肉処理場にいけば内臓は本当にいくらでも手に入ったんだ。安かったよ。若い人なんかにも人気で手に入らないハラミなんて、いくらでも余っていた。

そんな時代から、つまり日本人がホルモンを食べない時代から、客に食べさせようと努力してきたことは僕の先見の明かな。正肉しか頼まない客にも「うまいから食べな」って勧め続けた。

▲宝石のように美しいホルモンの盛り合わせ(撮影:吉場正和)

例えばさ、ギアラって部位があるだろ。今ではポピュラーだけど、昔は存在しなかったんだよ。なぜなら誰も食べなかったから、名前もついてなかった。内臓屋にいくらでもストックがあって、「これを売ってくれませんかね」って頼まれたから、僕はギアラを積極的に売ったんだ。

それを目ざといマスコミが注目して、「ギアラがおいしい!」ってテレビで放映して、あっという間にブームになった。

そしたら、今度はその問屋が「テレビに出ないでくれ」って言うんだよ。理由を聞いたら、「マコさんがテレビに出て褒めると、ギアラのストックがなくなるから」だってさ。笑っちゃうよ。「お前が売ってくれって言ったんだろ!」ってね。

ギアラなんて昔は誰も見向きもしなかったのに、気がつけば猫も杓子も「ギアラ、ギアラ」っていうようになったんだから、この世界は面白いよね。