昔の煮込みのほうが格段にうまい理由
その頃からかな、だんだんと店が忙しくなってきた。人間てのは不思議なもので、忙しいほど手を抜かないんだね。忙しいほど、うまいもん食わせたいと思うようになって、ますます努力するようになった。
その結果、「ホルモンといえばスタミナ苑」と評判になり、レバー・ミノ・タン・ハラミをはじめとするホルモンは、爆発的なヒット商品になった。
焼き肉屋は手を抜こうと思えば、いくらでも楽をできる仕事なんだと思う。でも、手を抜いたら自分に返ってくると言い聞かせて、これまでやってきた。
仕込み方法もすべて独学だけど、おいしくするにはどうすればいいかだけをずっと考えてきた。だから、みんなが「うまい!」って言ってくれたんじゃないかな。
インターネットでも、うちの店は評判がいいそうだね。うれしいよね、わざわざ書いてくれているのは。でも、自分じゃ見ないな。もしも悪いことが書いてあったら腹が立つし、血圧上がるじゃないか、「このやろー」って(笑)。
何か文句を言いたいなら、「私はこういうもんで、こう思うんだ」って、面と向かって言えばいいと思うんだ。
僕は昔からホルモンが好きだった。小さい頃から食べていたからね。世の中で一番うまい食べ物はホルモンだって、今でも思ってる。
煮込みって料理は、家庭では一般的じゃないかもしれないね。でも、うちは肉屋だし身近にあった。おやつなんて言葉もない時代だったけど、おふくろが作ってる最中に横から食べちゃうくらい好きだった。小さい頃は、親の見よう見まねで煮込みを作ったこともあったな。
あれは本当にうまかった。今の煮込みと比べたら雲泥の差だよ。味わいなんて今の煮込みは半分以下だね。なぜかって。それはね、狂牛病の影響なんだ。
2001年の狂牛病問題があって以降、日本でも牛の脳みそと脊髄は廃棄されることになった。牛の脊髄って、中が豆腐みたいになっているんだよ。それを煮込みに入れるとトロトロになって、とにかくうまいんだ。
狂牛病の前は食肉処理場に行くと、肉を処理したあとに廃棄された脊髄が簡単に手に入ったもんだ。「どうせ捨てるんだから好きなだけ持って行け」って感じだった。スタミナ苑から車で10分もかからないところに、父親が働いていた食肉処理場があったから、小学校の低学年の頃からついて行ってセリを見ていたよ。