東京都・鹿浜にある行列が絶えない焼き肉の名店「スタミナ苑」の店主・豊島雅信。9月30日放送のNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で取り上げられ、その圧倒的なこだわりや肉、特にホルモンへの熱い情熱の一端が放送されると、ネットでは「感動した!」「おいしさの秘密を知れた! でも、またこれで行列が伸びそう……」など、スタミナ苑の熱いファンからのうれしい悲鳴がこだました。

放送でも店主の豊島が「うちが予約を始めると半年先まで埋まっちゃうよ。そうすると、近所で食べたい人が食べに人が食べに来れなくなっちゃうじゃない」と語り、現役総理大臣も並んだ、と噂されるスタミナ苑。この肉と店主を愛す人々との知られざるエピソードから、食通は食べ上手と語る焼肉のマナーまで明かしてくれた。

※本記事は、豊島雅信:著『行列日本一スタミナ苑の繁盛哲学 -うまいだけじゃない、売れ続けるための仕事の流儀-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

あの秋元康の名言もスタミナ宛で生まれた!?

お店が知られるようになったのは80年代の最後、バブルのちょっと前からだね。放送作家の秋元康さんや、作家の林真理子さんをはじめ、タレントや文化人が食べに来るようになった。

「一緒に焼き肉を食べるカップルはできている」って説を秋元さんがひらめいたのも、うちで食べていたときだそうだよ。焼き肉って箸を使って、肉をひっくり返すこともあるじゃない。今はうちでもトングがあるけどさ。一度口にした箸を使うってことはさ……これも今や広く知られるようになったよね。

最初はみんな、穴場や隠れ家的な感じで面白がってくれたかな。だんだん名前が知られるようになって、有名人がたくさん来てくれるようになった。

林真理子さんは、うちの店を舞台に小説を書いてくれた。『四歳の雌牛』って短編はスタミナ苑が舞台だよ。

あの人が食べにくる日は、人より先にきて、オープン前に中に入って奥の部屋で原稿を書いてた。林さんは、うちの長男が生まれたときに花を送ってくれたり、ずっと懇意にしてもらっている。最初に来た頃は、絶賛売り出し中の勢いある若手の1人だったんじゃないかな。それからずっと贔屓にしてくれてるんだからうれしいよね。

そういえば、松田優作が来たこともあったね。僕はテレビをあまり見ないからそんなに詳しくないんだけど、あの日はデカイのが店内の電話で誰かと話していたんだ。

▲いまだ現役のピンク電話(撮影:キンマサタカ)

当時は携帯電話なんてない時代だ。奥さんに電話をかけていたようだけど、なんだか聞いたことがある声だから、厨房から覗いたら「あ、松田優作だ」って。

いやあ、背が高かったね。だって、この梁に当たりそうになってたからなあ。あれは確か病気で亡くなる数年前だったと思う。

先週はジャニーズの背の高い子が来てた。ルールを守ってずっと静かに待ってたよ。暑いなかを2時間平気で並ぶんだから大したもんだ。

総理大臣だった小渕さんも並んで待ってた。うちの息子は小渕さんからかわいがってもらってね、お小遣いをもらったこともあるんだよ。

小渕さんは本当によくしてくれたね。食ってる最中に「小渕さんですよね!」って、しょっちゅう話しかけられてたな。そういうとき、小渕さんは「似てるでしょ、よく間違われるんだよね」って笑ってた。そして、結局はみんなと握手して帰って行くんだ。

お客は現役の総理大臣と握手して喜んでたよ。食べている最中は、レジのところにSPが立ちっぱなしだ(笑)。