「陸の孤島」ともやゆされる足立区鹿浜にある焼肉屋「スタミナ苑」。辺鄙な場所にあるにも関わらず、開店2時間前から行列ができるというこの店は、多くの有名人が称賛する名店だ。

そのこだわりから、NHKの人気番組『プロフェッショナル』にも取り上げられた
店主・豊島雅信は、肉やホルモンへのみならず、人材育成や接し方、仕事やお金に対する哲学にもこだわりがあった。

※本記事は、豊島雅信:著『行列日本一スタミナ苑の繁盛哲学 -うまいだけじゃない、売れ続けるための仕事の流儀-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

アルバイトは褒めて伸ばす

アルバイトは上手に使ったほうが得だよ。だって、彼らは僕の給料も稼いでくれるんだ。アルバイトに気分よく働いてもらうために、言葉遣いは気をつけなくちゃいけない。

長く働いてもらいたいから、こっちも一生懸命だよ。賄いが楽しみなら、いくらでもうまいもん食わしてやる。仕事終わりならビールだって原価で飲ませるし、ごはんだっておかわり自由の大盤振る舞いだ。

大切なのは、従業員をうまく乗せて、気持ちよく働いてもらうこと。何かを頼むなら、断れないように上手にやるといい。それがうまく人を使うコツだ。

▲営業終了後に食べるまかないは格別の味(撮影:吉場正和)

僕はね、「使い上手は儲け上手」だと思っているんだ。人を上手に使えないと、金はついてこない。うまく人を使って、彼らに稼いでもらう。

僕の仕事は肉を切って準備すること。僕たちは注文を取れないんだ。そう、彼らが僕の給料を運んできてくれる。

自分で言うのもなんだけど、みんなが一つになってがむしゃらに仕事をしないと、こんなたいそうな売り上げは出ないよ。そして、これを持続するのも大変だ。

そういえば、今月もほとんどの日で大入りが出ている。ありがたい話だよね。

素人や二流ほど大変そうに見せる、簡単に見せるのがプロ

プロってのは簡単そうに見せる。なんでもないことのようにね。

でも、素人や二流は大変そうに見せる。下手くそほどカッコつける。そんなうちは、まだまだだね。実力がないと、かっこつけられないんだから。だから僕の仕事を見て、素人は簡単そうだなって思ってしまう。「あんなの簡単にできそうじゃないか」って。

▲毎日の仕込みは深夜に及ぶ(撮影:キンマサタカ)

でもさ、誇りを持って磨き続けてきた僕の仕事が、そんな簡単なわけないじゃない。仕事ができるようになったら、素材を良くすることも大事だね。

値段を言ったってしょうがないけど、うちのごま油は、昔から日本一高いのを使っている。昔のスタミナ苑はさ、それこそ、町の普通の焼き肉屋だよ。こんないいものを買うなんて考えられなかった。でも少しずつ客が増えて、還元したいと思ったんだ。そして、いいものを使って料理を作ったら、客はもっと来ると考えた。

お客さんはシビアだよ。おいしくなくなったら、すぐに見限る。その判断は本当に早い。僕は一番のプロはお客じゃないかと思うんだ。