YMOの衝撃をもろに食らった

――たしかに、若者はまずわかりやすいアイコンとして、“カッコいい”という印象から入ったりしますもんね。それで、そこを追いかけていくにつれて、深みにハマっていく。この本でも触れられていますが、青野さんにとって、YMOがそうだったんじゃないかなと推測するのですが。

青野 そうですね。音楽とファッションに能動的になったのは、YMOがきっかけですね。小学校高学年の頃、YMOが現象みたいになっていて、そこで触れたんですが、今まで聞いてきた音楽とはまるっきり違う、コンピューターで作ったみたいな音楽。男子って機械が好きじゃないですか(笑)。

〇YELLOW MAGIC ORCHESTRA 『RYDEEN』(HD Remaster・Short ver.)

――あははは(笑)、そうですね。

青野 そこでまず、とてつもない衝撃を受けるわけです。じつは皆さんがそれぞれすごく演奏がうまいからできていただけ、というのはあとから知るんですが。で、明らかにこれまで見てきたギター、ベース、ドラムで構成されたロックバンドとは、ステージ上の楽器や機械の量が違う。あとは、母がファッションの仕事をしていたのもあって、小さい頃からファッションが身近にあって、服を着るのが好きだったんですが、そういう環境の中で見たYMOは、めちゃくちゃファッショナブルだったんです。こんなカッコ良い音楽やっている人たちが、こんなにカッコいいファッションなんだ、っていうのがスタートですね。

――人民服をあんなにカッコよく見せるなんてって、後追いの僕でも衝撃でした。

青野 あれ、じつは高橋幸宏さんがデザインしたもので、スキーウェアをイメージしたものなんですけどね(笑)。

――え、そうなんですか、知らなかったです。

青野 YMOを取り上げているテキストの最後のほうにも書いたんですが、当時僕らは小学生だったので、その当時の大人たちがYMOをどう捉えていたのか、というのはすごく興味あるんですよね。もちろん、当時の雑誌を掘り起こせば、評論などはあるんですけど、世間の一般の大人たちはどう捉えていたのかな、っていうのは気になります。

――そうですね、だって歌のない曲がチャートに入っているわけですもんね。

青野 全く別物ですよね。1980年代は、いわゆるアイドルソングや歌謡曲が大部分を占めていたなかで、YMOのような音楽がチャートに入るのは、とてもエポックメイキングなことだったなと思いますね。

BLMでジョン・バティステが行った意義深いこと

――この本にも、海外のミュージシャンに限らず、ちゃんみな、CHAIなど、日本のミュージシャンも出てきますが、青野さんから見て、現代のYMOと感じるようなミュージシャンはいますか?

青野 これ、ずっと考えているんですけど、自分も歳を取っちゃったし、そういう目で見れなくなってる、というのは正直あります。やはり、僕がYMOのレコードを親にせがんで買ってもらったという高揚感は、その時期のその世代じゃないと感じられないことなので。

――なるほど。では逆に、ここで出てくるミュージシャンというのは、“この人を取り上げたほうが、みんなが見てくれるだろう”というよりも、ピースを当てはめていく、という感じに近いのでしょうか。

青野 そうですね。例えばデヴィット・ボウイのような存在であれば、ミュージシャンに寄って深掘りしていったほうが興味深いテキストになると思うんです。ただ、この本は既存の原稿に、新たな書き起こしを差し込んで、構成のしっかりした1冊にしたかった。なので、このテーマに対して、どのミュージシャンが適当か、というのはリサーチしましたね。

――この本にはジェンダーについての考え方や、LGBTQ、または人種による差別について、事実を紐解きながら青野さんの考えを踏まえて触れられています。正直、ご本人を前にして持ち上げるわけではないですが、そこに違和感がなかったのも、読んでいてホッとするところではありました。どんなにいい本でも、そういう思想の根本の部分に違和感があると、興味深く読み進められないので……。

青野 本当ですか、それはうれしい感想です。

――特にジョン・バティステを通して、BLMについて書かれた章が非常に興味深かったです。よくないことだとは思うのですが、やはり日本に生きていると、わかりやすい人種差別に直面する機会がないので……。

※Black Lives Matter…アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動のこと。

青野 そうですね。BLM については日本だとそこまで身近にはないですが、ジョン・バティステが行ったことはとても意義があることだし、我々も知るべきであると思っています。「We are」という楽曲を通じて、人類の歴史と家族史、自分史を接続し提示することで、現在進行系の運動と過去から連なる問題を多くの人に届ける。これはポピュラー・ミュージックの求められる社会的役割を彼が行ったということにほかならないと思います。

――日本でも、ジェンダーやLGBTQの問題は昔からありましたが、つまびらかに語られるようになったのは、やっとここ数年という印象があります。

青野 このインタビューでは語りきれないくらいの大きな問題ではありますが、特に性的指向や性自認を取り巻く問題については、切実なんじゃないかなと思います。問題はシリアスだけど、それをシリアスに伝えると伝わりにくいから、ユーモアなどでくるんでしまいがちですよね、それを受け手が理解せず、ネタとして消費してしまうことがある。簡単な話ではないですが、やはり受け手の理解力というのが、これから問われていくのではないかなと思います。