「コマ博士」や「SF博士」と呼ばれる山崎詩郎氏。難しく思われがちな「科学」の世界を子どもから大人まで多くの人にわかりやすく発信している。彼の科学への驚くほどに深い愛はどのように育まれ、形成され、それをどう仕事につなげてきたのだろうか。科学が好きになったきっかけ、そして「暗記は悪しきもの」と思い、考察なしで解答することを自ら禁じ、テストを白紙で出していたというユニークな小学生時代の話、そして、今後の展望を伺った。

暗記は「悪しきもの」と考えた小学生時代

――科学に興味を持ったのは、いつ頃なんでしょうか?

山崎 最初のきっかけは、小学校3年生のとき。テレビ番組でカール・セーガンというNASAの科学者が、科学をわかりやすく魅力的に語るという『コスモス』という番組があって、その番組に衝撃を受けました。それで科学にすごく興味を持ったのが最初です。その人がまさに、「科学者であり、その魅力を伝えるコミュニケーター」と両立している人だった。だから、僕の中では、そんなふうに両立している人になりたいと最初からあったんです。

――幼いころはどんな子どもでしたか?

山崎 今の僕を作ったのには3つの転機がありまして。1つめが今、お話した小学校3年の『コスモス』との出会い。そして、2つめのきっかけが、小学校5~6年生の担任の先生。その先生の授業がすごくよかった。暗記させるような授業ではなくて、考えさせるような授業でした。

例えば、円の面積を求めるとき、半径×半径×πを使わずにどうすればいいか。公式に当てはめれば一発でできちゃうんですが、公式を使わずに新しい方法で円の面積を求めてくださいと。円をハサミで切って、正方形にしていったり。円の上に絵の具を塗って、絵の具がどのくらいなくなったかで導きだしたり。厳密な答えが出なくてもいい、新しい方法で出ればOKなんですが、そんなふうに新しい方法を自分で考察して導き出すという方法が、すごく楽しいなと思いました。「考察」の面白さに開眼した。今でいう探求学習ですよね。

▲左が山崎詩郎、右が弟。天体望遠鏡を抱えて、夏休みに富士山山麓で天体観測。

ただ、その弊害もありまして(笑)。あらゆる勉強において、「暗記」で答えがわかるものを自分で禁じる、という強い制限をかけてました。考察して答えを導き出すスタイルしか自分の中で許さない、というスタイルです。

算数や数学は、公式にあてはめて答えを出すのは禁止。公式がなぜ成り立っているか、原理原則に自分でたどり着ければOKだし、公式で出すのと同じように解くことで答えを出せればよいんですが、あらかじめ公式を覚えて、そこに代入する形は頑なに拒否していました。

理科は好きだったのでテストもいい点でしたが、それでも「この星座の名前は?」という問題は解けない。それを知識として知っていても、自分で導きだしたわけではないので、答えがわかっていたとしても、白紙で出していましたね。

当時は、暗記というのが自分の中で「悪しきもの」という気がしていて。ただただ覚えるというのがすごく嫌いで、漢字のテストは「こんなのやるべきじゃないと」とボイコットしていて……。「俺はこれをやらないぞ」と断固たる意志で白紙で出し、テストは0点で通していた。今となっては漢字の面白さもわかるんですが、当時の子どもなりの考えでは、そんなふうに思っていました。

好奇心に火を点けるきっかけは「真似事」から

――小学生で漢字テストをボイコットとは徹底していますね(笑)。では3つめの転機は?

山崎 高校生のときに参加したサイエンスキャンプです。本物の研究者がいるところに1泊2日で泊まり込み、寝食をともにしながら一緒に研究をする体験ができるイベントで。それをやって初めて学校の中の授業でもなく、テレビでもなく、本物の科学に触れることで「生の実体験」として伝わってきて、それで科学者になろうと決意しました。

――今に通じる科学への愛の根幹は、その3つにあるわけですね。

山崎 あとは、両親の教育が自分に合っていた、というのがベースにあった気がします。両親からは「大学に行け」なんて言われたこともなければ、大学院なんて単語も知らないくらい。「中学を出たら働け」と幼い頃から言われてきた。そんな環境だったので、「勉強しなさい」なんて言われたことは全然ありませんでした。

それが今思うとよかったのかもしれません。まんべんなく勉強しなさい、とかがなかったから、自由に自分の興味を伸ばすことができて、勉強は純粋な自分の疑問に対しての好奇心ドライブの対象だった。それは両親に感謝すべきことでしたね。それと、天体望遠鏡を買ってくれたり、キャンプに連れて行って自然体験させてくれたり、そういうことをさせてくれる両親だったので。それもよかったんだと思います。

▲小学校の頃に使っていた本格的な天体望遠鏡

――先生のような好きを見つけて自ら走りだす「自走状態」にするには、どうすればいいんでしょうか?

山崎 よく語るのは「好きなことを伸ばしてあげたほうがいい」と。それは私の勉強法にも通じるところがあるんですけど、理科が好き、アートが好き、だったら、それを集中的に伸ばしてあげる。

理科のテストで100点をとることに一生懸命になるよりかは、「プロの真似事」をするのが好奇心に火を点けるのかもしれません。例えば、自由研究。自分の興味のあることを自分なりに研究し、まとめる。

私は自由研究の審査員もするんですけど、この前あったのが「伸びないラーメンを作るには」という研究。いろんなラーメンの種類はもちろん、ゆで時間を変えてみたり、親だけでなく、おじいちゃんおばあちゃんに食べてもらってフィードバックを得たり、そんな自由研究もありました。

そういう理科の教科書には載っていないけれども、自分の興味を活かして、プロの真似事をやってみたほうが、自分の車輪が動くようになる。後ろから親が一生懸命、押して車輪を動かすのではなく、これについて知りたいということで、興味に火が付き、自分でアクセルを踏む。そちらのほうが、結局は遠くまで早く到達するかもしれないんですよね。