国家の命運を外国に委ねるな! 独立国としての「フリーダム(freedom)」を、外国と官僚に依存した戦後体制によって奪われている日本。国際情勢や国内の諸問題を通じて、真の「フリーダム(freedom)」とは何か? 『日本は誰と戦ったのか』(ベストセラーズ)で第1回日本再興大賞を受賞、第20回正論新風賞を受賞した江崎道朗氏が日本再建の道はどこにあるのかを示す!
トランプ政権が目指すパワーオブバランス外交
1980年代、アフガニスタンを侵略し、日本の北海道を奪おうとするなど侵略的なソ連に対してロナルド・レーガン共和党政権が毅然とした強硬策を唱え、日本やドイツなどと連携してソ連の脅威に立ち向かいました。
ソ連の侵略に対して弱腰でいるから、ソ連はますます図に乗って世界各地で戦争を始めている。よって、「もう侵略は許さない」という毅然とした対応をとるだけでなく、アメリカと同盟国の軍事力を徹底的に強めて、「実際に戦争をすることなくソ連を心理的に屈服させよう」という戦略です。
これをバランス・オブ・パワー外交と呼びます。
このレーガン政権の対ソ戦略は見事に当たり、ソ連は侵略を断念、米ソの冷戦はソ連の敗北で終わりました。
その後、アメリカは国内問題に専念しようとしたのですが、2001年に9・11同時多発テロが起こり、「中東のイスラム・テロリストたちをやっつけない限り、アメリカの平和を守ることはできない」と、ネオコンと呼ばれる国際政治学者たちが主張しました。
しかし、アメリカが中東紛争に関与すればするほど、中東の平和と安定は損なわれ、紛争は拡大していきました。しかも中東の紛争に行ったアメリカの若者たちは自爆テロ攻撃を受け、その多くがひどいケガを負い、死んでいったのです。
「もう戦争は嫌だ」
中東紛争の介入に疲れたアメリカ国民は、「対外戦争でアメリカの兵士を殺さない」と主張した民主党のオバマ氏を支持したのです。
オバマ政権は急激な軍縮を実施すると共に「もはやアメリカは世界の警察官ではない」と公言し、世界各地の平和と安定を維持するための努力も怠るようになったのです。
紛争の危険を事前に察知し、紛争が拡大しないようにするためには、インテリジェンスといって地道な情報収集・分析活動が必要なのですが、そうした予算までばっさりと削減し、中東紛争はますます激化してしまったのです。
しかも南シナ海に軍事基地を作るなど「侵略」を堂々と進める中国に対しても、口先で非難するだけで実効的な措置を取ろうとしませんでした。こうしたオバマ政権の安全保障政策を、米軍関係者は自嘲的に「アメリカ封じ込め政策」と呼んでいました。
むやみやたらに「対外軍事干渉」をしてはいけませんが、オバマ政権の「アメリカ封じ込め」も問題なのです。
バランス・オブ・パワーを維持しながら、世界の紛争を抑止するというレーガン政権の外交・安全保障政策を見失ってきたのが、この20年のアメリカの対外政策でした。
たからこそ、「戦わずして勝つ」ことを目的とするバランス・オブ・パワー外交に戻そう。というのが、トランプ陣営の基本的な考え方です。
以前、トランプ陣営に近い安全保障の専門家が来日し、長時間にわたって議論したことがあります。その結果、判明したことは、トランプ政権は、防衛力を増やして再び「強い米軍」復活を目指しているということでした。
よく知られていますが、アメリカの首都ワシントンでは、中国に対する見方が真っ二つに分かれています。
米中国交樹立を進めたヘンリー・キッシンジャー氏のように中国の軍事動向について甘い見方をする人たちは「パンダ・ハガー」(パンダを抱擁する人 panda-hugger)と呼ばれます。意外かもしれませんが、この勢力が長らくワシントンで多数派を占めてきました。
一方、近年の中国による軍拡だけでなく、アメリカの民間企業に対して産業スパイを送り、込み、軍事関連テクノロジーを盗もうとしている中国に対して厳しい見方をする専門家たちもいます。この少数派は「ドラゴン・スレイヤー(竜を殺す人 dragon-slayer)」と呼ばれます。
このグループがトランプ政権でアジア政策を主導すると言われているのです。
※本記事は、江崎道朗:著『フリーダム 国家の命運を外国に委ねるな』(展転社刊)より、一部を抜粋編集したものです。