カミングアウトについて想うこと
――すごくいい話ですね。ただ、ご自身の本音と向き合う時間って、同時にしんどさも伴うんじゃないかな、と想像するんですが。
ミナモト そうですね。でも、これもどっちもだと思っていて。確かに自分自身を出したり投影するときって、それを煮詰めてるときはすごく大変なんですけど、それが形になって表にバンって出せるときは、自分はむしろ楽になるんです。
なので、嫉妬の気持ちとかも、この仕事じゃなかったら、なかなか人に打ち明けられなかったと思うんですけど、ありがたいことに世の中に出していただけて、一部の人が共感してくれたりすると、自分の醜い気持ちも誰かの支えにはなれるのかもっていうのがすごくあります。だから、自分をさらけ出すっていうのは、むしろ自分を救ってあげてる感じになるんです。
――まさに先生のコミックエッセイとかは、本当に助かってる人がたくさんいるだろうなって思います。全員が全員、カミングアウトするっていうことに賛成ではないっていうのも書かれていて、カミングアウトすることが正解の環境の人もいるだろうし、もちろんそうじゃない人もいる。それをしたことによってツラかったりすることもあるから、その人の場合によるんだけど僕はこうでした、ということを書かれてるんで、すごく優しいなと思いました。
ミナモト でもそれは、ある程度、大人になってから芽生えた気持ちでして、最初の頃は自分がやることが正しいって思いたかったので、正直カミングアウトすることが正義だと思っちゃってたんですよ。
ただ、30歳くらいになるまでに、いろんな人の話を聞けば聞くほど、当たり前ですけど絶対に言えない環境に生きてる人とかに接してきて、言うことが正義って思ってたのは、あまりにもちょっと傲慢だったなっていうふうに思ったんです。その考えに至った以降に描いた作品とかは、その経験がちょっと生きたのかなとは思ってます。
漫画家を目指している人へのアドバイス
――難しいかもしれないんですけど、漫画家になりたいと思っている方に何かアドバイスがあれば、そういう相談を受けることってありますか?
ミナモト アシスタントさんとかからは時折ありますね。
――アシスタントさんからの相談って、やっぱり技術的なことだったりするんですか? それとも心持ちなんでしょうか?
ミナモト 自分の印象なんですけど、意外と壁に当たりやすいのって心持ちのほうですね。漫画を描く作業って、自分もなんですけどいろいろな雑念が入ってくるので、ほんとはただ描きたいものを描いていればいいんですけど、自分に近い人が先にデビューしちゃったとか、いろんなことでギスギスしてきちゃうものなので。そういう場合のアドバイスって難しいですよね。
――難しいですよね。なんかこうどれぐらい人の意見とか、担当さんの意見とか、どこまで折れるかとか、どこまで譲るかっていうのもあると思いますし。
ミナモト あ、でもそれに関して言うと、アシスタントさんにも言ってるんですけど、人によっては、ネームを見てくださいとか言われるんです。そこで最初に前置きするのが、「全然見るし、もし欲しいんだったら意見は言うけど、もし頭の中で“こいつなんもわかってねえな”って思ったら、何も聞かなくていいから」って(笑)。
――あはははは!(笑)
ミナモト これは自分が新人時代そうだったんです(笑)。確かに、編集さんの意見を聞くことが掲載される近道ではありますけど、当然ながら、すべての編集さんと自分の意見が合うわけでは絶対にないので。だから、指摘が“頓珍漢なこと言いやがって”だとしたら、表面だけは笑顔で聞いといてって(笑)。
――(笑)。一応いったん飲み込んだふりして……。
ミナモト そうそう。ただ、自分の場合、言い返されるとさすがに傷つくから、とりあえずは“なるほど~”って聞いておいてほしい(笑)。でも、全然違うと思ったら心の中では聞かないほうがいいよって。逆に考え過ぎて、描きたいものを描けなくなっちゃうほうが駄目なので。
――すごい…! 含蓄があります。
ミナモト 最終的には、自分が好きな人の意見だけを聞いていればいい、と思っちゃいますね。そんなに自分から厳しい意見を求めに行くって、そこまで必要ないんじゃないかなって思っちゃうんですけど……大丈夫かな、こんなこと言って(笑)。フォローではなく、今の担当編集さんは完全に信頼しています。それがどんな厳しい意見でも全部聞きますね。それぐらい人による気がしています。
――何を言ってるかっていうよりは、誰が言ってるかっていうのが重要な感じなんですかね。
ミナモト そうですね。自分が、この人の意見が好きだなっていう人を見つけたら、逆にその人の意見がすごく厳しかったとしても、あんまり逃げないほうが、後々すごく自分のためになると思います。
――ありがとうございます。今後のミナモト先生の展望というか、野望についてお聞きしたいんですが……。
ミナモト 野望! いい言葉ですね(笑)。
――(笑)。個人的には、作品を作り続けていってほしいと思うんですが、何か考えていることがあればお聞きしたいです。
ミナモト ここ数年の自分の漫画家人生って本当に幸せで、信じられないくらい描きたいものを描きたいように描かせていただいてるんですよ。本当に『COMICリュウ』さんのおかげなんです。例えば、一般誌でセクシュアリティをテーマにした作品を描きたいというのもずっと夢だったので、それも叶えてくれたんです。
なので、漫画については、自分がそのときに描きたいものを描かせてもらえる場所があったらいいなっていうぐらいなんですけど……。野望って言われたときに、ちょっと思い浮かんじゃったことがあって。
――言ってください!
ミナモト 今回、ドラマ化っていうとんでもない夢をかなえてもらって、ドラマが始まる前は、さすがの自分も、達成感で自分の中の承認欲求がこれで収まるだろうなと思ってたんです。外から見たら、とっても幸せな境遇にいるわけじゃないですか。だから、収まるのを期待してたんですけど、1ミリも収まらなくて(笑)。
――(笑)。それは読者としてはうれしい報告です。
ミナモト むしろ、ドラマ化されて考えているのは、『壁こじ』のドラマがあまりにも素敵に作ってもらえたから、終わっちゃうことが寂しくて……。なので、このあとも自分はたぶん『壁こじ』を普通に描いていくんですけど、そうですね、また初心に帰って、『壁こじ』を頑張って描き続けて、いつかまたドラマのキャストさんたちを、自分が漫画を描き続けることで集結させるっていうことができたらって、すごく今、夢に見てます。