野手陣も戦いながら育成をして勝ち続けている大阪桐蔭

大阪桐蔭は、これまでの世代と比較すると、異なる点が多々見られた。野手陣に関しては、2番の山田と3番の徳丸以外はほとんど固定せず、4番打者に関しては荒削りながらも長打力があるラマル・ギービン・ラタナヤケや南川、佐藤夢樹といったあたりが座り、戦いながら競争をしていたことがわかる。

明治神宮大会までの秋季大会を見ると、起用された選手はその試合でしっかりと結果を残していたこともあり、野手陣の層の厚さを再確認できたのではないだろうか。

野手に関しては、境亮陽やラマルの育成ができれば、相手チームからもかなり脅威になっていくため、境はトップバッターとして起用していき、ラマルは6、7番あたりで自由に打たせて育成していくと大きく育っていきそうだ。

特に2018年を彷彿とさせるかのように山田や徳丸など中心選手は左打者が多いため、長打力が見込めるラマルを含めた右打者の成長が鍵を握っていくだろう。

投手陣の今後の課題は前田に頼りすぎないこと

投手陣に関しては、ほとんどの試合で前田が先発をした。その前田のピッチングが目立ったなかで、近畿大会の準決勝と明治神宮大会の2回戦では前田をマウンドにあげず、細かい継投策で龍谷大平安(京都)に勝利した。西谷浩一氏が監督になってからの大阪桐蔭を見ると、ショートイニングの継投策は珍しいことだった。

2012年や2018年の投手陣は先発として、長いイニングを投げられる投手が揃っており、まさにローテーション化が可能だった。その世代と同様に、今年3年生の川原嗣貴や別所孝亮、前田の投手陣も、春夏連覇や主要大会(明治神宮大会・センバツ・夏の甲子園・国体)グランドスラムができると思えるぐらい、かなり自信があったのではないだろうか。誰が見ても盤石な布陣であり、3投手とも先発として長いイニングを投げられる投手だった。しかし、夏の甲子園準々決勝の下関国際(山口)の打線に攻略され、逆転負けを喫した。

その夏の甲子園では、優勝を果たした仙台育英や、春季近畿大会に敗れた智弁和歌山(和歌山)に勝利した國學院栃木(栃木)は細かい継投策が目立った。細かい継投策ではなくても、下関国際のように打線を制圧できる力のある投手をリリーフに置く戦略も、印象に残ったのではないだろうか。今年の夏に関しては、これまで通りの投手育成と優勝できなかった余波は大きかったと見ている。

その影響もあったのか、前田が登板しなかった秋季近畿大会準決勝の龍谷大平安戦では、かつては見られなかったショートイニングで5人の投手をつないで勝利。特に2番手の南陽人は、火消しから回跨ぎまで素晴らしいリリーフを見せた。前田が投げなかった試合で、この勝利は1勝以上の価値を見出したといっても過言ではない。明治神宮大会の2回戦も3投手の継投策で勝利。実戦経験があまりない投手が底上げされた試合だった。その相手が、龍谷大平安やクラーク国際だった点は大きかったかもしれない。

さらに、夏の甲子園で準優勝を果たした下関国際のように、力のある投手をリリーフに回すことも明治神宮大会決勝で試していた。その結果、前田が無失点の好リリーフを見せ、連覇を果たした。

これまで、実戦登板をした5人の投手は全員140km/h台を記録したが、大阪桐蔭は6人の投手が140km/h台を記録したことになる。下記が6人の投手の球速だ。

前田悠伍:148km/h
南陽人:145km/h
南恒誠:145km/h
平嶋桂知:144km/h
松井弘樹:143km/h
境亮陽:141km/h
参照:高校野球ドットコム

140km/h以上を叩きだす6の投手陣を確立した。現状はまだまだ前田頼みではあるが、前田自身の課題はもちろんのこと、このような勝ち方を確立していければ、2度目のセンバツ連覇に近づいていけるだろう。


プロフィール
ゴジキ(@godziki_55)
自身の連載である「ゴジキの巨人軍解体新書」「データで読む高校野球 2022」をはじめとした「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」などで、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心にコラムを執筆している。今回、新たに「WANI BOOKS NewsCrunch」でコラムを執筆。Twitter:@godziki_55