ひろゆきとサイゼリヤと4℃が大好き
――ニーズを知るための情報収集はどうやってされていますか?
祖父江 ずーっとTwitter見てます。朝起きてすぐTwitterを見ますし、寝る前もTwitter。電車のなかでもTwitter。ほんとツイ廃です。
――最近で気になったツイートはありますか?
祖父江 一番注目しているのは、何が“燃えてるか”ということですね。燃えるのは、みんなそこに興味がある、ということなので。今、世の中の人の興味はどこにあるのか?っていうことをずっと探していて、最近みんな、ひろゆきが好きだなーって思いながら見てます。世の中の人は、ひろゆきとサイゼリヤと4℃が大好き。この3つは定期的に炎上しますよね。
――みんなで議論できるネタということでしょうか。
祖父江 議論というか、それに対して興味があるから怒りも湧いてくるし、共感も起きるし、茶化したくもなる。興味がなかったらスルーしますから。
ここから導き出される事実はただひとつ……みんなサイゼリヤが好き。おごりおごられとか、最初のデートでサイゼリヤがありなしなんて関係ないんですよ。みんなサイゼリヤ好きなんだなってことしかわからない。
欲望が垂れ流されてる場所ですよね、Twitterは。人間のいい面も悪い面も包み隠さず。私はこの世界が大好きです(笑)。
――祖父江さんに欠かせない欲望観察の場なのですね。ドラマにも活かされている気がします! 祖父江さんの感覚で構わないので、「ヒットするドラマの法則」があれば教えてください!
祖父江 ……難しいなぁ。一般的な「ヒットの三原則」って考えると、テレ東に1個も当てはまらないじゃん、テレ東が欲しくても手に入らないものばっかりじゃんって思います(笑)。テレ東的ヒットと一般的なヒットは、たぶん違っていて。よく「テレ東らしさ」って言われるんですけど、そのたびに悩んでいて。テレ東らしさで唯一出た回答は「お金がない」だけだったんです。これは絶対的事実(笑)。
最初からテレ東らしさを目指していたわけではなくて、お金がないから、ないなりにやってきたことがテレ東らしさになっていった、という歴史があるんですよね。ヒットの三原則があったとして、それができないからどうする?っていうところから、私たちのものづくりが始まるっていう。テレビ東京でヒット作があるとしたら、それは世の中のヒットの三原則から外れたもので、何かの化学反応と奇跡が起きて起こったヒットだと思います。
確実にあるのは“誰かの狂気”ですね。誰かの熱量、誰かの狂気。ヒットした作品は、プロデューサーなのか脚本家なのか、誰かが恐ろしい熱量を持って作ってるものが多い。逆にそれが1個もないと絶対に当たらないです。あとキャスティング。今から10年前、松重豊さん主演で、中年男性が一人でご飯を食べるだけのドラマ(『孤独のグルメ』)が、テレビ東京を支えることになるとは誰も思いませんでしたからね(笑)。
――テレビ東京的に隙間を狙っていくからこそ、いつもチャレンジャーでいられるということはありますか?
祖父江 それはあります。なんてったって人が少ないですから。社員の数が少ないのに、埋めなきゃいけないタイムテーブルは他局と同じ24時間。そうすると、テレビ東京の社員の良いところとして、どんどん自分の打席が回ってくるんですよ。幸いにも枠もたくさんあって、地上波に乗らなくても配信の番組もあるし。
でも、そうするとやることがいっぱいあってマジしんどいです。もしかしたら他局では、ドラマがコケたからしばらく出番がない、みたいなプロデューサーがいるかもしれない。そうでなくても、1個のドラマをじっくり作ったら次までちょっと期間が空く、みたいなことがあるかもしれないですけど、うちはもう次から次で作らされる。
失敗しても落ち込む暇もなく、さっさと次を作らされるっていうのは、ドラマを作りたい、仕事が大好きっていう人間にとっては、とても恵まれた環境だなぁと思います。
――これからこういうものを作りたい、というテーマはありますか?
祖父江 都市と田舎をテーマにしたいな、とはずっと思ってますね。自分が岐阜の田舎から出てきて、東京で仕事をしているので。もし、あのまま岐阜にいたら……っていうのはたまに考えます。
今はわりと体力もあって仕事もうまくいってて、結婚なんかしなくてもいいし、子どももいらないけれども、このままのノリで楽しく生きていけるわけでもないだろうなと。そうなったときに、はたして私は東京でずっと仕事をしていていいのだろうかと思うこともあります。それが今の私の等身大なので、またこれに何か足したドラマを作るんだろうなと思っています。
※本記事は、WANI BOOKOUT[特集]BOOKOUTジャーナル「祖父江里奈さん 『来世ちゃん』プロデューサー式・突き抜ける仕事術」を加筆編集したものです。