ポルノが作りたいわけじゃないんです

――『来世ではちゃんとします』では、緊縛された主人公がオムライスを食べるシーンを見て、衝撃を受けました!  祖父江さんの作られるドラマは、知らない世界を覗き見させてもらえる刺激があって、食い入るように見てしまいます。女性が今まで表立って言えなかった本音や、共感したい部分を形にしてくれていますが、“受け入れられるエロ”、“受け入れられないエロ”のさじ加減や線引きは意識されていますか?

祖父江 特に『来世ちゃん』がそうなんですけど、私は「エロいシーンほど面白く」っていうのをテーマにしていて(笑)。脚本家にも監督にも現場スタッフにも、「いいか、エロいシーンほど面白くだぞ!」っていうのは口をすっぱくして言ってます。

テレビなので当然、限界はあって、表現の仕方については審査部と何度も相談と交渉を繰り返しました。よく言われたのが「生々しい表現は避けてほしい」「視聴者が不快になる表現はしないように」ということ。その結果、コメディタッチにすることで明るくライトな印象の作品になりました。主演の内田理央さんも肌を露出するような露骨なエロシーンはありません。

ポルノが作りたいわけじゃないんですよね。それはもっと専門の人たちがいるし、その人たちに対するリスペクトもあるし。私は、ドラマのなかでできるエロをやればいいと思ってるので、エロの限界に挑戦、みたいなことは目指していません。会社・視聴者・事務所、これらが全部納得して、みんなが怒らないレベルを常に微調整するのを心がけてます。シリアスに描写するのも1つのやり方かもしれませんが、私は娯楽で包むほうが好きですね。

▲ドラマのなかでできる「面白いエロ」をやればいい

――役者さんを選ぶときはどう決めていますか? どんな美しい女優さんも、ちょっと情けなかったり惨めな部分がリアルだったり、クズ男キャラの俳優さんも、なんでこんなにハマるんだろう?って思うのですが、この役とこの人はマッチするな、というのはどうやって見抜くんでしょう?

祖父江 これは本当に役によるんですよね。内田理央さんが主演した『来世ではちゃんとします』も、山口紗弥加さんが主演した『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』も、まずは絶対に女性視聴者から嫌われない人にしようって思いました。ちょっとエロい内容だし、ともすれば、ふしだらなキャラだから、女の人から嫌われたら終わりだと。

だから、とにかく女性の視聴者から好かれるキャスティングをしようって思ったときに、内田理央さんは当時『おっさんずラブ』に出ていて、主人公に叶わぬ恋をしながらも支えていく幼なじみという役どころで、それがすごく女性の共感を呼んでいて。あと、彼女はオタクなところがあって、マニアックな話を嬉々として話したりする。彼女だったら女性にも好かれるだろうなと思ってお願いしました。

「マッチングアプリ」は品、上品さ。この役が下品に見えたら終わると思ったので。山口紗弥加さんは、年下男性との軽薄な行為を演じても失われない品性がある女優さんなので、最高だと思いました。

このドラマは、マッチングアプリを推奨するわけではないんですよ。でも、マッチングアプリを使えば38歳でも若いイケメンとデートができる。それをあなたがわかってやってるんだったらいいんじゃない?っていうメッセージなんです。だって、ためらってる人がいたらもったいないじゃないですか。やりたいんだったら、やればいいよって。

もしも、主人公が真剣に結婚相手を探しているような状況だったら別だけど、あの主人公はバツイチで、失われた青春を取り戻したいって思ってるから、そのときにマッチングアプリは最高に便利だし、女の人が“ヤリモク”でアプリを使って何が悪いっていうのが、最大のメッセージだったんです。

――ともすると、アプリの危険性を描く方向に行きがちかなとも思います。

祖父江 そうですね。もちろん、ひどい男に会ってしまったり、犯罪まがいの目にあうようなシーンもありましたが、それはメインで描きたいことじゃない。あのドラマは、ただただアプリで浮かれた恋愛を描くだけじゃなくて、アラフォーならではの葛藤や人生の行き詰まりだとかがあって、後半でそれがしっかり描かれるところが、原作の魅力だなと思っていました。

これがまさに「これは私のことだ」ですよね。だから、ドラマを見た友達から「アンタなんてものを作ってくれたんだ」って言われました。なんてものを世に放ったんだって(笑)。

――ちょっと意地悪な質問を。他局のドラマで「このドラマは自分が手がけてみたかった!」と思った作品はありますか?

祖父江 MBS制作の『明日カノ(明日、私は誰かのカノジョ)』です! どこがやるんだろうと思ってたら、“あ〜MBS、だよねだよね。え? 監督・酒井麻衣? 最高だ〜”って思いました(笑)。MBS+明日カノ+酒井麻衣、この組み合わせを考えたプロデューサーは天才だなと思いました。

――どの辺が、さすがだなと思うポイントだったのでしょう?

祖父江 やっぱり、酒井麻衣監督を組み合わせたことですよね。私は女性監督に注目しているんですが、彼女は『マッチングアプリ』を撮ってくれた監督で、若い女の子の欲望を不快感なくキャッチーに、美しく描けるという点で、いま一番の監督だと思います。

その監督と、まさに今時の女の子たちのあらゆる種類の欲望を描いた『明日カノ』という原作、そして、じつはテレビ東京なんかよりはるかに尖っている、と私が思っているMBSの深夜枠「ドラマイズム」……さらにはディズニープラスで配信まで! もうもう完璧な布陣です!(笑)

MBSのあの枠、ライバルなんですよ、うちと。私は勝手に“テレビ東京深夜のライバル枠はあそこ”って思ってます!

▲テレ東深夜のライバルはMBS「ドラマイズム」