テレ東のドラマが面白い! 今や誰もが知っている常識ともいえるかもしれないが、ちょっと前までは放送エリアによって見られる番組が違っていた。しかし現在は、まさに大サブスク時代であり、テレビドラマの世界も「視聴率至上主義」から「配信で長く愛される作品」が評価され、オンタイムを過ぎれば、時間帯・放送局も関係なし、各ドラマ横ならび一斉スタートだ。

『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』など、女子のココロに寄り添いつつ、ズブッと刺さるドラマを次々と制作するテレビ東京プロデューサーの祖父江里奈さんに、「シン・ドラマの需要」を伺います。

原作を読んで「これは私だ!」と震えた

――セフレが5人(!)もいる働き女子が主人公の『来世ではちゃんとします3』の制作が発表されましたが、祖父江さんが手がけるドラマは、誰もが持つ性欲や人恋しい気持ちが等身大に描かれていて、思わず共感してしまいます。女性のちょっとタブーな部分を映し出すドラマは、どのようなプロセスを経て誕生したのですか?

祖父江 あくまでテレビ東京では……なのですが、まずは局で「何曜日の何時の枠の企画募集をします」っていう募集がかかるんです。そうすると、たとえば「これをドラマ化したい」という原作を探したりするんですが、それに加えて自分だったら、この原作を監督誰々、脚本家誰々、主演誰々で、こんなふうに料理するっていうのを企画書にして出すんです。

▲ドラマプロデューサー・祖父江里奈にインタビュー

――企画の時点でキャストも自由にイメージを?

祖父江 企画書に書くのは、「こういう人をキャスティングしようと思ってる」っていう意思表示ですよね。今どきのアイドルなのか、 実力派女優なのか、はたまたーーっていう。

場合によっては、先に俳優さんの事務所に「この企画が通ったらやってくれますか?」と内諾をとって、企画書に「誰々さんがやってくれるって言ってます」って書く場合もあります。そうすると、その企画書の信用度が上がって、妄想から一歩、現実に近くなるんです。

――「このドラマを作りたい!」というプロデューサーの熱量は、どういうところから生み出されるんでしょう?

祖父江 私は「自分が見たいドラマ」というのがまずあって、そして見た人が「あ、この主人公は私だ」って思える作品を作りたいと思っているんですね。なので、いつも“等身大プラスα”を意識しています。この主人公は自分みたいだけれど、ちょっと勇気を出して一歩踏み出したら、この世界が見えるかも? みたいな。

『来世ではちゃんとします』は、原作を読んだときに「これは私だ!」って思いました(笑)。セフレが5人いる女の子はあまりいないかもしれないけど、好きな人の本命になれなくて、ずっとセカンドの位置に甘んじている女の子っていうのはたくさんいるはず。そういう人たちなら、この主人公に共感してもらえるだろうと。私が共感してるんだから、他にも共感する人はきっといっぱいいるはずだ、これをもっと広く広めたいっていう思いから熱量が生まれることが多いですね。

――「等身大プラスα」という点が絶妙ですね。

祖父江 自分と全く同じ人間を描いても、そこに感動も成長もないので。かといって、突拍子もないスーパーウーマンを描いてもーーっていうことで「等身大プラスα」。スーパーウーマンを描くとしても、その裏の顔は私たちと同じ、というふうにしたり。

――祖父江さんのドラマは、主人公に共感してその体験を疑似体験しつつ、代理満足も得られる感じがあります。マッチングアプリで貪欲に出会いを楽しむバツイチアラフォー女性が主人公の『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』も勉強になりました(笑)。

祖父江 そうそう、マッチングアプリのドラマはまさにそうで。私自身が今まさに38歳なんですが、世代的にマッチングアプリがちょっと怖い世代なんです。でも、興味がある人たちはいっぱいいて。そういう人たちに「こんな世界が広がっていますよ」っていうことは言えたらいいな、と思ってやったドラマでした。私自身がこの原作を読んで、“あ、そうなんだ!”って思ったということもあるし。

私たちは自分が褒められるより、なにより作ったものの感想をいただく瞬間が一番うれしいんですが、「38歳バツイチマッチングアプリのドラマを見て、初めて勇気を出してマッチングアプリを使ったら彼氏ができました!」みたいな感想をTwitterでいただいたときに、めちゃくちゃうれしかったのを覚えてます。

――テレビの世界は保守的な面があると思うのですが、怖い印象のあるマッチングアプリの企画を通すのは大変ではなかったですか?

祖父江 意外にも反対の声は少なかったです。この大サブスク時代の始まりで、ちょうどParavi(パラビ)が女性向けドラマに力を入れ始めた時期だったんです。それで、配信でウケそうな女性向けのドラマの企画募集があって。テレビ東京で、女性向けドラマの企画募集がかかるなんてことは過去にはなかったです。

――スマホ視聴時代で制作現場も変わりましたか?

祖父江 変わりました! もう本当に。スマホ視聴・大サブスク時代で、作られるドラマはガラッと変わったと思います。まず、作られる作品がとても増えました。

――やりやすくなった感じはありますか?

祖父江 そうだと思います。以前は視聴率がテレビの全てだったので、視聴率競争から漏れるものは制作すらさせてもらえなかった。視聴率競争ということは、地上波リアルタイム放送での一発勝負なんですよね。それで数字が取れなかったら、これは良くない作品、儲からない作品ってことになって。

その視聴率競争からこぼれたテーマが、ちっちゃく映像化できるようになったのが今の時代かなと。だから、私が手がけるようなちょっと変わった作品、小さな作品が生まれやすい環境にはあると思います。

――スマホでちょっと見てもいいかもという作品と、リビングのテレビで録画してでも見たいものは違いますよね。

祖父江 違いますね。スマホは“こっそり見られる”という需要と、“いつでも見られる”という需要があって。なんてったって、昨今の若者、倍速で見たりするじゃないですか。いかにして配信で一気見してもらうか、みたいな目線でも考えてはいます。