自分を信じてくれたのは誰か
「この先、TAIGAは売れるかな~?」と別の友人が言うと、S子は「売れへんやろ。オモロないもん! この歳でこんなダメな男、無理やて」吐き捨てるように言った。
一瞬で頭に血が上った。今までの努力や苦労全てを踏みにじられ、拳が震えてブチギレそうだった。だが、結果を残していないのは、紛れもなく俺だ。この歳まで売れてない原因も、すべて俺にある。お金を出してもらってノコノコと大阪まで結婚式にきた俺が悪い。なにより、ここでブチ切れたら友人たちまで最悪な気持ちにさせてしまう。
怒りを鎮めるために、大きく深呼吸する。
金持ち社長に飲み屋でおしぼりを投げられ、酒をかけられながら「面白くねー」「売れるわけないだろ」そんなこと散々言われ、バカにされ続けてきた若い頃の苦い経験を経て、この歳になって短大時代の友から貼られたレッテルは「面白くないダメな奴」。だが俺はグッと奥歯を噛み締めながら大阪観光を終えた。
挨拶もそこそこに新幹線に飛び乗る。ボーッと車窓を眺めながる。イヤホンからは中島みゆきさんの「ファイト」が流れていた。
「♪ファイト! 闘う君の唄を~闘わない奴等が笑うだろう~ファイト!」
自宅に帰り、バイト終わりの彼女を飲みに誘う。乾杯が終わると彼女は笑顔で「結婚式どうだった? 楽しかった?」と聞いてきた。
「楽しくなかった。『面白くない』とか『売れるわけない』とか好き勝手に言われたよ。でも金もないのに結婚式なんか行った俺が悪いな」
そう言って酒をあおるように飲む。彼女の顔を見ると、涙を流して泣いている。
「そんな人たちにTAIGAさんの面白さがわかるわけないじゃん! 悔しい、絶対許せない!」
あちこちでバカにされてきた俺だし、自信をなくしたことは何度もあった、芸人を辞めようと思ったことも数えきれないほどあった。だが、気がついた。俺の才能を変わらず信じてくれていたのは、目の前にいる彼女だけだってことに。
次の日から必死にバイトをした。年末にS子に8万円を送り返し、連絡先も消した。
俺は決心した。この子と結婚しよう。
(構成:キンマサタカ)