”Vシネマの帝王”として知られる小沢仁志が昨年、6月19日に還暦を迎えた。
「長生きしようと思ってやってきてないから、あんまり年齢の自覚はないね。スタントを使わないでここまで来たんで、相当、無理やったよ。しかも全部独学。練習なんてしたことがない。ずっとギリギリ。50歳まで生きると思わなかった(笑)」
「いろんな修羅場を超えてきた」と語る小沢。その一つ一つが強烈で伝説だ。
俺に何が起ころうともカメラは止めるな!
「例えば、ビルから落ちる場面で踏み込むときなんて、飛び降りる先のエアマットって、かなりでっかいものでも、上から見るとちっちゃく見える。その真ん中に落ちなくちゃならない。だけど、上からだとよく見えないんだ。
飛ぶ際、ちょっとでも躊躇があると、どんなに練習を積んでいるスタントマンでさえ、100%の力を使っているつもりが、90%ぐらいになってしまう。そのせいで思ったより手前に落下して、ビルに激突して、亡くなるスタントマンもいる。
でも、そのときに『死んでやる!』と思いきって飛ぶと、マットどころかカメラまでも超えてしまう。当然、マットじゃなくて、コンクリートの上に落ちるんだけど、骨折ぐらいで済む。“どっちにする?”って話(笑)」。
笑えないエピソードを笑いながらする小沢に「怖くないんですか?」と聞いてみると、「ない」と即答。
「いざ本番ってときに一瞬、本人にしかわからない静寂の間がある。そのとき、ビビるのよ。そこで“死んでやる!”って、自分を解放するのが俺の手段。そうすると体が動く。ビビっていると動かない。俺の場合、やりながら覚えたね。“これ、やばいかも”と思っても、やり切ってみると、まだ生きてる。“さあ、次は何をやってやろうか”ってなるんだよ」
『海賊仁義』(2005年)のフィリピン・ロケでは、戦車や一個小隊と戦った。
「あいつら、火薬の量とかアバウトなんだよ。一応、こっちも『大丈夫?』って聞いてみるけど、『ノープロブレム! OK!』って。ガソリンを飛ばして、火薬に火をつけるナパームってやつを使うんだけど、飛び散ったガソリンが衣裳について、うしろから思った以上にでっかい火が来るから、衣裳が燃え盛るわけ。
飛んで、転がっていると、毛布を持ったスタッフたちが抱きついてきて消しにかかる。ナパームやって、トラポリンで飛んで、崖落ちして、最後は爆発。どんなスタントマンだって、そんなの練習できないよ。映画で見ると、普通に燃え盛っている上を飛んで通過しているみたいに見えるかもしれないけど、実は映像には映っていない熱風が爆発より先にくる。
一瞬、音が聞こえなくなって、無音になるわけ。そのときにサッと目を閉じないと目が焼けてしまう。それは本能的にわかる。でも、俺、空中で目をつぶっているから、落ちる先のマットが見えてないわけ。で、体が空中から落ちて、熱風を超えるとブワッと音が戻るのよ。そのときに目を開けると、“マット、そっちかよ!”みたいな(笑)」
繰り返すが、笑ってする話ではない。それでもスタントマンを使わないのが小沢流。あのトム・クルーズがスタントマンを使わない理由は「アクションが楽しいから。好きだから」。でも、小沢は違う。
「自分がやりたいことがあって、“こういうアクションを見せたい”と思ったとして、それをスタントマンに頼んで、その人が万が一事故に遭ったら、すごく悔やむよね。でも俺だったら、俺がやりたくってやったんだから、事故に遭ってもしょうがないって割り切れる。俺らにはハリウッド映画みたいな予算があるわけじゃない。
でも、近づきたいし勝負したい。バジェットや映像のことではなく、見る人をどれだけ、ハラハラさせられるかでね。それは常に考えてる。屋上で銃撃戦やって、手榴弾投げて、爆発して、俺がふっ飛んで、柵を超えて、カメラがグッと覗き込んだら、手すりに俺が腕一本でぶら下がっているっていう動きをワンカットでやったら、見てる人、きっとゾッとするよね?
そういうのに賭けてる。俺が危ないだけで、お金はかかってない。マジで(笑)。あと、『俺に何が起ころうと、カメラの録画を止めて、俺を助けようとするなよ』とは言ってある。映像に残るのが全てだから。俺が大怪我して二度とできないのに、録画されてなくてシーンが使えないなんてありえないよ」