小学3年生で見たチャップリンから映画漬けの日々

彼をここまで駆り立てるものはなんなのか。「映画愛ですか」と聞いたら、「愛するってなんだ? 『映画愛にあふれた作品』とか言われたら、俺、気持ち悪いね」と一笑に付された。

「映画は好き。好きな映画の仕事をしてる。映画を公開して、上映後に舞台挨拶に出ていったとき、お客さんが拍手してくれる。あれが一番の至福の瞬間。どんなに苦しんでも、あのために俺は働いているんだと思う」

「愛」なんて小っ恥ずかしい言葉は必要ない。男らしく、きっぱり「好き」と言おう。小学3年生のときにチャールズ・チャップリンの『黄金狂時代』を見て、映画の世界に引きずり込まれた。半世紀以上、映画漬けの日々だ。

「チャップリンの映画って、俺はアクションだと思っているから。ヒューマンドラマで泣けるし、笑わせるけど、あの笑わし方には結構、命がかかってるよ。何度も階段落ちしたり、独特な転び方にみんな笑うけど、あれは絶対に痛い。

あの時代、CGはないからね。ロバート・ダウニー・Jrが『チャーリー』っていう伝記映画で、転び方を見事に再現していたけど、2回骨折したらしいから。それぐらい、笑いに命をかけている。相当すごいことをやってるんだ。チャップリン、『燃えよドラゴン』のブルース・リー、それから、こんな美しい女性が世の中にいるのかと思った『エマニエル夫人』のシルヴィア・クリステル。これが小学生の頃から、俺を突き動かしている三賢人だね」

上映後、舞台挨拶でお客さんからいただく拍手が一番至福のひととき

初プロデュース・主演した映画『SCORE』で悔しい経験

楽しそうに映画の話をしていたかと思えば、表情が一変。「映画が好きで、この仕事になっちゃったけど仕事だから。好きなことが職業になることってすごくつらい。やっぱり、そこに利害関係が生まれるから」と漏らした。胸中には初めてプロデュースも兼ねて主演した映画『SCORE』(1995)のことがあるのだろう。努力は報われるとは限らないという現実を思い知らされた作品だ。

「監督の室賀(厚)が当時、話題になっていたクェンティン・タランティーノの映画『レザボア・ドッグス』が5000万円で作られたことに対抗意識を燃やして、突然、『ハリウッドが5000万円なら、俺らは500万でやろう』って言い出してね。その頃、Vシネでもまだ3000万円ぐらいの予算があったのに、『なんで?』と思ったけど、『作りたいものを作りたい』という。

それが『SCORE』の前身。それにコメントをもらおうと奥山(和由)さんに見せたら、『コメントを出すのはやぶさかじゃないけど、明日、監督を連れてこい。3000万円出してやるから、お前らの作りたい映画を作れ』と言われた。それでできたのが『SCORE』」

派手なガンアクションで見せる、強盗4人組の死闘。まさしく日本版『レザボア・ドッグス』である。

「撮影がまあ鬼のように長くてね。フィリピン・ロケで撮りきれず、日本でも追加撮影。監督が編集しながら、『ここが足りない。小沢さん、明日、何やってます?』ってまだまだ撮影したがるわけ。こっちは髪の毛がどんどん伸びるし、正月なんて、みんな里帰りして東京にいないのに、俺は実家が東京だからいるのよ。

正月から井の頭公園で撮影して、9ヶ月かかってやっと完成。奥山さんのところに持っていったら大喜びで、『ムーブメントを作って、お前らを売り出してやる。宣伝費は2億円出す』って言ってくれて。“(同じ出すなら宣伝費じゃなく)制作費でくれたらいいのに”とは思ったけどね(笑)」

▲予算がいくらであろうとも全力で臨む