ロシアの電子戦にやられた2014年のウクライナ

小野田(空) サイバー防衛というのは、今はマルウェアに侵入されないように防護するという考えではないんです。政府レベルのシステムも、一般的に使われている携帯電話も、マルウェアが侵入してくるということはもはや防げません。被害を局限する、あるいは可能な限り被害を早く復旧するという方向に、サイバー防衛はシフトしています。これを「ゼロトラスト」と言います。

ようするに「完全には防げないということを前提に物事を考えていく」ということで、これが今の世界の潮流になっています。日本はその取り組みが遅れているなどと巷(ちまた)では言われています。防衛省は2022年度予算で、ウサデンの3分野に関連する自衛隊各部隊の増強に着手しています。

ウサデンの3つめの「電磁波」は、具体的には電子戦、EW(Electronic Warfare)のことです。EWは3つの区分に分かれています。電子的な攻撃を意味するEA(Electronic Attack)、電子的な攻撃を防護するEP(Electronic Protection)、どういう電波が使われているかという情報を収集するES(Electronic Support)の3つです。

ロシアは特に、この電子戦の分野で非常に手強い能力を持っていると言われています。米軍の専門家に聞いても、一般論ではそのように言うのですが、実はウクライナ侵攻に際しては、ロシアがあまり電子戦の能力を活用した形跡が見られないと指摘されています。

2014年ドンバス地域の攻防では、ロシアがいわゆる親ロシアの勢力を支援したわけですが、ロシア軍がものすごい量の電子戦の機材を戦線に供給しました。そのためにウクライナ軍はかなり指揮統制を乱して、厳しい戦いになったわけです。2014年は、電子戦によって指揮統制が乱れたウクライナが負けたという部分があります。

そうした苦い経験があり、ウクライナはその後の8年間で米軍の協力を得て、電子戦能力を大きく高めました。

ウクライナ軍の参謀本部がつくった、ロシア軍EW部隊の構成というものがあります。これを見ると、一個軍団に所属する中隊レベルの専門部隊が持っている装備が示されていて、2014年のドンバス地域で、親ロシア勢力が運用した機材がわかります。

専門部隊は、4種類の小隊に分かれています。指揮統制をするC2、VHF周波数帯を妨害する小隊、UHF周波数帯を妨害する小隊、その他の周波数帯を妨害する小隊です。

それぞれいろいろな機材を使っているわけですが、妨害の対象はVHF帯とUHF帯、それからもう一つ非常に重要なのはGSM(Global System for Mobile Communications)、つまり携帯電話の周波数帯です。ヨーロッパで用いられていた、いわゆる2Gから3Gにかけての技術ですね。これを妨害する能力に加え、衛星通信を妨害する能力、GPS信号を妨害する能力も持っていてフルスペクトラム、全範囲的です。

ロシア軍EWには電子攻撃の優先度があります。その第一がウクライナ軍のUAV(Unmanned Aerial Vehicle)、つまりドローンの行動を抑制することです。

コントロール信号を妨害してUAVが飛べなくなるようにします。UAVには自立して飛ぶものもあるんですが、自立して飛んでいたとしても、たとえばカメラの情報などはすべて電波で送られますから、それを妨害する。これが第一優先です。

第二優先は、通信に対する妨害です。VHF帯、UHF帯、携帯電話を妨害する。第三優先は、自分たちの持っている電子戦のシステムと物理的な攻撃兵器を組み合わせて、実際に物理的な打撃を加えるということです。第四優先は、敵の情報漏れを探知して火力を集中する。この4つの優先度のもとで2014年のウクライナはひどい目に遭ったんですね。