ロシアの戦闘機Su-35は、ミサイルそのものが発射後に自分で目を開いてレーダーで索敵をするので、次から次へとミサイルを撃ち続けることができる。

これに対してウクライナの戦闘機はミサイルが当たるまでレーダー照射し続けなければならない。これではウクライナはロシアに到底勝てっこないのだが……。さらに、ウクライナ空軍の戦闘機「Mig-29」の老朽化もあり、かなり苦戦を強いられてもおかしくない状況なのだが、2022年5月にウクライナ空軍は、ロシア空軍の戦闘機「スホーイ(Su-35)」を撃墜したと主張した。

果たして、ウクライナ空軍はどのようにロシア空軍に対抗しているのか。軍事の中でも、特に空軍のプロフェッショナルである小野田治元空将に、防衛問題研究家の桜林美佐氏が切り込みます。

※本記事は、インターネット番組「チャンネルくらら」での鼎談を書籍化した『陸・海・空 究極のブリーフィング-宇露戦争、台湾、ウサデン、防衛費、安全保障の行方-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ウクライナがロシアの最新戦闘機を撃墜できた理由

桜林 ウクライナの「空」について小野田さんに伺いたいと思います。2022年5月27日にウクライナ空軍はフェイスブック上で、南部ヘルソン州の上空においてロシア空軍の戦闘機「スホーイ(Su-35)」を撃墜したと主張しました。

ウクライナ空軍の戦闘機「Mig-29」の老朽化が進んでいると言われている中でこれだけ活躍している、ということは西側諸国から補用品などの部品の到着がかなり進んでいるのではないか、と思わせる出来事でした。このあたりの状況をどうご覧になっていますか。

▲Su-35S 出典:Dmitry Terekhov from Odintsovo, Russian Federation(Wikimedia Commons)

小野田(空) 3月10日頃の時点でウクライナの戦闘機はもともとの保有数の80%、50機ぐらい(戦闘爆撃機のSu-24、Su-25を除く数字)が残存しているという状況で、それから2カ月以上が経ってかなり減耗していると思います。

ただ、5月23日にアメリカが中心になって40カ国を集めてウクライナ支援のためのオンライン会議をしました。40カ国の中に旧東側の国が含まれていて、ウクライナが使用しているSu-27、Mig-29、Su-24、Su-25の部品を持っている国があります。それをかき集めてウクライナに送っているというのは事実のようです。

そのおかげでこれらの戦闘機の維持整備が成り立っているという情報は確かにありました。ただその結果、いったい何機が生き残っているのかということはわかりません。

通常、戦闘機は最小単位2機で戦いますけれども、Mig-29とSu-35を比べると製造年数的にだいたい20年ぐらい違います。レーダーの見え方と見える範囲、それから積んでいるミサイルの飛ぶ射程もSu-35の方がはるかに優勢です。

Mig-29は相手の飛行機にレーダーを当て続けておかないとミサイルが当たらないようになっています。ところが、Su-35は、ミサイルそのものが発射後に自分で目を開いてレーダーで索敵をするので、撃ちっ放しで相手の飛行機に到達できるんです。

これが何を意味するのかというと、「次から次にミサイルを撃てる」ということです。いったんAという飛行機にレーダーを当ててミサイルを撃つ。ミサイルがAに到達するまでの間にもう次の飛行機を探してまた撃てる。そういう具合に非常に効率よく戦えます。

しかし、Mig-29の場合には、ターゲットにミサイルが当たるまでレーダー照射し続けなければいけないという不利がある。レーダーのレンジも狭いし、ミサイルの射程も短い。だから決定的に不利なんです。

では、Mig-29だとSu-35に勝てないのかといえば、もちろん勝てるチャンスはあります。チャンスはありますが、非常に工夫しなければいけない。

▲MiG-29MU1 出典:Alan Wilson(Wikimedia Commons)

 

地上や空中のレーダーの支援を受けているような場合には非常に効率的に戦えます。たとえば、AWACS(Airborne Warning and Control System:早期警戒管制機。早期警戒システムを搭載した空中警戒管制システム。空飛ぶレーダーサイト)のような飛行機から相手の飛行機の所在、あるいは方向等の情報をもらえると、先回りして先に撃つことができる。そうしないと、Mig-29ではSu-35にたぶん勝てないと思います。

一方、ロシアもA-50というAWACSのような早期警戒管制機を持っています。ウクライナにやられてしまうので、このA-50は絶対にウクライナ領空、特に東部地域近くには入ってきません。

しかし、今回ウクライナ側がロシア機を撃墜したというヘルソンという都市は、ウクライナの東側の国境からは距離があります。ロシア側はクリミア半島上空あたりにA-50を飛ばせばヘルソンあたりなら見えるはずですから、情報をトラッキングしている可能性はあります。そうすると、やはりロシアのSu-35の方が優勢にはなるんですね。

おそらくSu-35が低空を飛行していたとするとA-50の支援が受けられなかった可能性があります。逆に、ルーマニアあたりに飛んでいるAWACSからヘルソンあたりが見えるかもしれないので、その支援を得られた可能性もあります。

つまり、報道の通り、ウクライナ空軍がMig-29でSu-35を撃墜した可能性としては、「なきにしもあらず」というところです。ただ、それが報道になるということは、やはり「Mig-29という旧式機で最新型の戦闘機Su-35を落とした」という構図がニュースバリューとして非常に高いのだろうと思います。

本当にMig-29で落としたのか、地対空ミサイルで落としたのか、そのあたりは判然としませんけれども、ウクライナ空軍は「Mig-29で撃墜した」という言い方をしていました。国民を鼓舞することにもなりますし、空軍の地位を高めるという効果もあったのではないかと思います。

桜林 メッセージ性が高いということですね。