私がYouTubeを撮れば違うものになった

――「猪木さんの素を見たな」っていう瞬間は、原さんにはありましたか?

 素はほとんどないんですよ。でも、晩年にYouTubeが流れたでしょ? 「なんでも見せる」と言いながら、やっぱり“カッコいい猪木”でありたいというのは気持ちのなかにあるから。カメラが回ってることについて、猪木さんは「ダメ」と絶対に言わないんだけど、やっぱり見せたくないものもあったんだろうなあ……とは感じました。

――晩年のYouTubeに関しては、賛否両論ありました。

 うん。

――特に、前田日明さんは「ああいうの、なんで見せるかね?」と周囲のスタッフに憤っていらっしゃって。ただ、『猪木』にも出てきますが、原さんは老いていく猪木さんについて「よく写そうとするのはやめた」と書かれていましたよね? 「だって、猪木さんは全部さらけ出そうとしてるから」と。その猪木さんの精神が、あのYouTubeなのかな……とも思ったんです。

 でもたぶん、もしも私が撮ったら……まあ、私は動画は撮らないですけど、もし撮ったならば、たぶん違ったものにはなっていたと思う。世に流れたのは、見る人がショッキングな映像だったと思います。私が撮ったらそんなショッキングのものにはならないかな……っていう気はします。私は動画は知らないし、わかんないですよ? でも、動画は「どうやって撮るか」「どうやって編集するか」によって変わるから。

――まさにYouTubeを初めて見たとき、ショックを受けたんです。「これはいいのだろうか?」ということまで考えてしまって。

 あれはたぶん、あの日の朝に猪木さんの死亡説がかなり流れたので、それを否定するため、出そうと思ってなかった映像を出した結果だと思いますけどね。

 

――いち早く死亡説を否定するため、撮って出しみたいな感じで。

 ええ、だと思います。

――なるほど。ちなみに、先ほど猪木さんの素について伺いましたが、たとえば新間寿さんは「アントニオ猪木は好きだけれど、猪木寛至は嫌いだ」とよくおっしゃいます。原さんは猪木さんに幻滅したことはありますか?

 幻滅はしないです。みんなは“アントニオ猪木と猪木寛至で二人いる”って分けるけど、どっちかって言うとずっとアントニオ猪木だった気がします。古舘さんは「寝てるときは猪木寛至に戻るのかな」って言ってたけど、誰かがいる場所なら寝てるときだってアントニオ猪木なんじゃないかな?って私は思うんですよ。一人で部屋の中に入ったら、猪木寛至になるのかもしれないけれど。

――だから、猪木さんの寝顔を撮ったわけですもんね。

(取材:寺西 ジャジューカ)

≫≫≫ 明日公開の後編へ続く


【燃える闘魂追悼企画】アントニオ猪木写真展 原悦生「猪木という現象」
開催期間 :2022年12月26日(月)~ 2023年2月12日(日)
開催場所
書泉グランデB1階(神保町) 格闘技・プロレスコーナー
書泉ブックタワー4階(秋葉原) 格闘技・プロレスコーナー

内容:カメラマン・原悦生氏撮影、アントニオ猪木氏の写真を展示。アントニオ猪木関連商品を展開(販売)予定。
詳細は書泉ホームページをご覧ください。
https://www.shosen.co.jp/
プロフィール
原 悦生(はら・えっせい)
1955年、茨城県つくば市生まれ。早稲田大学卒。スポーツニッポンの写真記者を経て、1986年からフリーランスとして活動。16歳の時に初めてアントニオ猪木を撮影し、それから約50年、プロレスを撮り続けている。猪木と共にソ連、中国、キューバ、イラク、北朝鮮なども訪れた。AIPS国際スポーツ記者協会会員。