次世代への戦略が周回遅れの日本は大丈夫か?

小野田(空) 実際、ウクライナでも戦闘機同士が戦う場面はほとんどなくて、脚光を浴びているのは無人機「バイラクタルTB2」です。じつはバイラクタルだけじゃなくて、無人機は砲撃目標の捜索・位置評定などにも多用されています。そういった無人機の活用がすでに現実の世界では起きている。

▲トルコ空軍のバイラクタル TB2 写真:Bayhaluk / Wikimedia Commons

桜林 映画はヒューマンドラマなので、人間が必要だという話になっていますが、実際のところはどうなっているんだろうという疑問はありました。無人機の有効活用は、航空自衛隊にとっても大きな課題になるんじゃないかと私は思っています。それでもやっぱり人が戦闘機に乗ってスクランブルするような形のほうがいいのでしょうか?

小野田(空) 象徴的な例を挙げると、米空軍が今つくっている最新型の秘密の戦闘機は、現在の「第5世代」に続く「第6世代戦闘機」とは呼んでいません。「Next Generation Air Dominance(次世代航空支配)」、略して「NGAD(エヌガド)」と言っています。次世代の航空優勢をどのようにして確保するかという課題に対して、それを果たす役割は必ずしも有人戦闘機ではないということを象徴しているんです。

では、実際にどんなビジョンが描かれているのかというと、これは推測を含みますが、有人戦闘機と無人戦闘機がチームを組んで、ミッションごとにそのチームを組む無人戦闘機のタイプが変わってくる。そういうチーミング〔より良いチームワーク構築のためにチームの最適化を模索・実践し続けること〕のようなものが考えられているようなんです。

たとえば、航空優勢を確保するために“相手の地対空ミサイルを攻撃する”といったときに、実際に有人戦闘機が発射のボタンを押すのではなくて、ある無人機が囮(おとり)になり、別の無人機が地対空ミサイルを発見し、さらに別の無人機がミサイルを撃つ、というような役割分担をする。その全体を有人機に乗った人間が安全なところから指示をする、というイメージのものが考えられているようです。この辺が一つのヒントになるのかなと思いますね。

▲中国製UCAVの翼竜 写真:Kalabaha1969 / Wikimedia Commons

伊藤(海) 経営修士論でいうところの「アズ・ア」モデルですね。最近では「as a Service(サービスとしての)」を略した「〇aaS」の形の「アズ・ア・サービス」モデルが有名です。ソフトウェアの「SaaS(Software as a Service:サース)」、モビリティの「MaaS(Mobility as a Service:マース)」など、製品そのものを売るのではなく、製品をサービス化して売るという発想に世の中が変わってきています。

たとえば、トヨタでも最近は「車を売る」ではなく「モビリティ(移動手段、動きやすさ)を売る」という方向にシフトチェンジしていて、もはや車そのものに焦点をあてているのではありません。

アプリにしても、今はユーザーがソフトウェアのパッケージ製品を購入して自分のパソコンにインストールして稼働するのではなく、月額使用料を払ってアプリで必要な機能をサービスとして利用する形(SaaS:サービスとしてのソフトウェア)が多いですよね。

軍事にしても民間にしても、世界では今、そのようなものの見方、切り口を変える考え方の時代になっていて、欧米はとっくにその方向に進んでいるわけです。日本は相変わらず防衛力整備で護衛艦がいくら、とやっていますが、世界はそうじゃない。日本は考え方が古い。

桜林 中国は、ドローン一つとっても日本をはるかに上回る量を持っています。緊急発進(スクランブル)にしても、どんどん消耗戦になっていく。

伊藤(海) どうやって航空優勢を取るかが目的で、そのために何を使うかという手段は、次に考える必要がある。ところが、日本は順序が違っていて「戦闘機じゃなきゃだめ」という手段ありきの思考過程に固執する。いわゆる旧思考から抜け出せないんだけど、欧米は違う。手段はこれしかない、などという100:0の話じゃなく、それもあるしこれもある、うまく組み合わせて考える。

目的を達成するために、多様な手段から選択するという話です。ビジネスモデルの世界はとっくにそうなっているのですから。