台湾の有事は、日本の有事であることは言うまでもない。台湾が戦場になったら、日本も攻撃対象になる可能性が高い。評論家の江崎道朗氏の司会のもと、小川清史元陸将、伊藤俊幸元海将、小野田治元空将といった軍事のプロフェッショナルが、ロシアウクライナ戦争から学ぶ、台湾、そして日本の対応について解説します。

※本記事は、インターネット番組「チャンネルくらら」での鼎談を書籍化した『陸・海・空 究極のブリーフィング-宇露戦争、台湾、ウサデン、防衛費、安全保障の行方-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

ウクライナ侵攻から台湾有事に備えて学ぶこと

江崎 ロシアによるウクライナ侵攻が、日本にどういう影響を与えるのか。台湾関係のことを伺いたいと思います。

小野田(空) ウクライナ紛争が台湾に直接リンクするということはないけれど、中国にとっても、台湾にとっても、非常に大きな教訓を与えているのは間違いないですね。

冗談っぽく言えば、習近平はニヤッと笑っている。習近平からすると、自分たちにとって何が問題で、何が利点なのか。そういうことをウクライナ紛争は明るみに出した、というところがあります。「ほら見ろ、簡単に台湾を取るなんてできないんだよ」と国内向けに言うこと、つまり政権を維持するということにも使えます。

あるいは「PLA〔People’s Liberation Army:中国人民解放軍〕よ、ちゃんとウクライナ紛争の中身を見て教訓を整理して、明日にでも台湾を取れるように準備せよ」と言うこともできるでしょう。両方に使えるという側面があります。

一方、台湾にとってみれば「我々は海に囲まれているから大丈夫」というわけにはいかない、ということですね。海に囲まれていることで不利な面もたくさんあります。海洋を封鎖されると、外国からの物的な支援が得られない。結局のところ、自分たちだけで戦わなければならないということを、いま一度、彼らは学んだと思います。

▲プーチンと習近平(2017年) 写真:The Russian Presidential Press and Information Office / Wikimedia Commons

昨年、アメリカと台湾との三者のミーティングがあって、小川さんと一緒に出たんですけれど、彼らが一番関心を高くしていたのは「国民団結」という教訓です。国内には、やはり親中派のような存在がいて、彼らによって国民の団結が崩されてしまうと、戦う前に台湾はあっという間に崩壊してしまいます。

そうならないためにも、情報戦・認知戦の領域でやられないようにする、国民の団結を保つ、ということを彼らは最大の教訓として強調していました。

小川(陸) 「台湾有事は日本の有事」とは今ではもう常識です。もし有事になったらどうなるか。攻められてしまっては、一方的に手を上げて「やめてください」と言っても終わらない。相手に取られてしまって降参すれば、戦い自体が終わることはありえるんでしょうが、取られてしまえば、国家や国民の主権はどうなるのか、そこにいる人たちの統治はどうなるのか、北方四島みたいなことがまた起こるのか、ということになる。

そうならないためには、ウクライナが頑張っているように、少なくとも自分たちが主張できる状況になるまで反撃しなければいけない。敵基地攻撃能力を持とう、という議論も起きてはいますが、相手に反撃して停戦を強要できるだけの持続的な打撃能力を持つべきです。

初動のみならず戦いの終始を通じて、反撃によって相手を交渉の場につかせるところまで、自分たちの意志を通せるような持続する打撃手段を持っていないと、どうにもならない。そういうことを、もう一度学ぶべきではないかなと思います。

江崎 有事が起きた際に、平和を取り戻すためにも反撃能力を持たなきゃいけないということですね。

小川(陸) はい。軍事力によって奪われたところは反撃して取り返す手段がないと、どうしようもないということですね。

江崎 伊藤先生はいかがでしょうか。

日米に対する台湾の願いは?

伊藤(海) ご承知の通り、台湾というのは非対称戦略〔軍事力、戦略、戦術が大幅に異なること〕なんですね。もとから「中国と同レベルの空母を持って対等になろう」という戦略ではなく、まさに非対称のままどう戦うかというのを長いこと考えているわけです。そのなかで今回のウクライナを見ている。「非対称のままでとは言っても、やはり火力の差があれば不利になるな」とか、いろいろなことを考えていると思います。

ただ、もちろん台湾には、当然のように反撃する意思がある。立派だなと思いますね。先ほど小野田さんがおっしゃったような「国民も認知戦で中から崩されないようにせよ」という話は、2021年の台湾の国防報告書にも明確に書いてあります。

そして「我々は国を守る。自分たちで守る」と言っている。誰もアメリカにも守ってもらおうと思っていないし、いわんや日本に守ってもらおうなどとは思っていない。日本の保守層などからは「日本も台湾と一緒に戦えるようにせよ」と言う声も聞こえてきますけど、台湾はそんなこと思っていません。自分で戦うつもりでいます。

「日本やアメリカは、パートナーとして同じ方向を向いていてくれ」というのが、彼らがずっと言い続けていることです。「ブレないでサポートしてくれ」ということですね。

▲日米に対する台湾の願いは? イメージ:ピクトモーション / PIXTA

そこから派生して、もし台湾が戦場になったら、日本も攻撃の対象になります。だから「台湾有事は日本の有事だ」という話をしているわけです。「台湾に行って一緒に戦おう」みたいな論調は、ちょっとまじめに考えたほうがいい。

一番の問題は、未だに台湾駐在の日本の駐在武官がOB(退職した自衛官)ということです。「台湾と一緒に戦え」と唱える勢いのいい人たちがいる一方で、台湾本島に現役自衛官を送っていないんですね。こんなかっこ悪いことをやっているのは日本だけです。

まずは現役自衛官をちゃんと送ること。それも、最初に起きるのは海空の戦争ですから、海空自衛官をしっかり送る。現役の人たちでしっかりやれるメカニズムなどをつくらなければいけません。気合いで喋っている人たちは、そのあたりをもう少し知ったうえで言われたほうがいいと思います。