映画『トップガン マーヴェリック』には、これからの戦争を考えるうえで重要なことが描かれている。たとえば海軍少将が「君たちのようなパイロットは絶滅する」「これからは無人機の時代だ」と言う。軍事のプロフェッショナルたちはこれをどう見るのか。防衛問題研究家の桜林美佐氏の司会のもと、小川清史元陸将、伊藤俊幸元海将、小野田治元空将に、これからの時代の「空」における戦闘について論じてもらいました。
※本記事は、インターネット番組「チャンネルくらら」での鼎談を書籍化した『陸・海・空 究極のブリーフィング -宇露戦争、台湾、ウサデン、防衛費、安全保障の行方-』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
最新鋭のF-35が使われていない理由
桜林 大ヒット映画の『トップガン マーヴェリック』はご覧になられましたか? この映画の影響で、戦闘機パイロットになりたい若者が殺到しているという話もあります。
小野田(空) 防衛研究所(防衛省の政策研究の中核を担うシンクタンクで、安全保障に関する学術研究・教育を行う国立機関)の防衛政策研究室長で、よくテレビにも出ている高橋杉雄さんと一緒に『マーヴェリック』について対談したものが『週刊現代』(2022年7月9日号)に掲載されました。
そのなかで高橋さんが話していたことですが、じつは『トップガン2』というのは、アメリカの国防戦略の専門家のあいだではブラックジョークだったといいます。
前作『トップガン』が公開されたのは冷戦期の1986年で、当時使われていた機種はF-14トムキャットでした。その後、紆余曲折を経てF-18に替わりますが、ロシアや中国の戦闘機に対する優位性を維持するために、新型機F-35に更新されることが予定されていました。
しかし、その開発スケジュールが大きく遅れたため、2010年代前半になっても前作の時代と戦闘機がたいして新しくなっていないという状況でした。そのため専門家のあいだでは「『トップガン』の続編を撮るといっても、どの機種を使うんだ? まだF-35は使えないだろう? 今撮ったら前作と同世代の戦闘機だぞ」といったブラックジョークが囁(ささや)かれていたわけです。
結局『マーヴェリック』では、F-18E/F(スーパーホーネット)が使われました。映画の撮影が開始されたのは2018年でしたが、F-35の艦載機バージョン、F-35Cが実戦配備され始めたのが2019年初頭でした。
映画の公開は、当初は2021年の予定がコロナウイルスの影響で2022年となりました。この頃にはF-35Cの配備も進んでいましたから「なんで最新鋭のF-35が使われていないのか?」という疑問が出ました。じつは映画のなかで秘密作戦にF-35が使えない理由を将軍が説明しています。その内容は、映画を見てのお楽しみということで、今回はその指摘だけにとどめておきたいと思います(笑)。
小川(陸) それはありがたいです。私はこれから見ますので(笑)。
小野田(空) 『マーヴェリック』の見所はたくさんありますが、現実世界のこれからの戦争を考えるうえで、重要なことが映画のなかに描かれています。たとえば冒頭のシーンで、海軍少将が「君たちのようなパイロットは絶滅する」「これからは無人機の時代だ」と示唆するシーンです。
桜林 今のウクライナ戦争に通じる象徴的な話ですね。