煮卵研究家も満足した渾身の出来栄え
さて、次の調理に移るとする。じつは私、寮母a.k.a煮卵研究家という異名を持っている。つまり煮卵を作るのが大好きなのだ。
このレシピ本にも煮卵を発見したので、早速作ってみることにした。ゆで卵は、ゆで時間の1秒1秒が命取りになる。わたしのオススメタイムは、冷蔵庫から取り出したての卵を沸騰したお鍋で7分ジャストだ。これより短くても長くてもいけない。余熱で火が入ってしまうといけないので、7分経ったら鍋に飛び込む勢いでゆで卵をとりだし冷水につけるのだ。
冷水につけながら殻を向くと、大抵の仕上がりがわかる。今回は私好みに仕上がっていそうだ。
前もって合わせておいた、少しウイスキーが香る大人の調味料にチャポンと潜らせて、ゆで卵ちゃんもしばしお休みしてもらう。次会うときは、もう少し日焼けしててくれよな。
そしていよいよメインメニューの角煮を作る。
いつもぐびぐびと飲んでいるウイスキーを鍋で沸かすのは、なぜか少しの背徳感があった。調理中からぷ~んと、ウイスキーの良い香りが狭いワンルームの部屋に広がる。まるで気分は高級イタリアンだ。生姜は入れれば入れるほど美味しいというのは私調べだが、生姜はしこたま入れる。
醤油やブラウンシュガーなどの調味料も入れ、豚バラブロックは約2時間の灼熱地獄の旅へと旅立っていった。
ウイスキーを料理に使ってハイボールを飲む
3品とも時間をかけて漬けるおつまみだったので、角煮ができあがると同時に3品完成した(豆腐と煮卵は一晩寝かせるとさらに良い)。
豆腐はうっすらと茶色い膜を張っており、煮卵は夏休み明けの小学生のように日焼けをしていた。
さっきまで薄ピンクだった角煮も、茶色くてらてらと光り、美味しそうな匂いを放っている。
まずは「ウイスキー漬け半熟卵」を箸で割ってみる。中からトロりとした黄身が飛び出し、茶色い卵とのコントラストが美しい。口にしてみると、お醤油の中にほんのり香るウイスキーの香りが鼻を通り抜ける。最高の黄身加減。煮卵研究家、渾身の出来栄えである。普段作っている煮卵とは違う風味で、おつまみにもピッタリだ。
ここでわたしはプシュっと缶を開けた。ブラックニッカハイボールである。ウイスキーを料理に使ってハイボールを飲んでいる。いつもより酔いのまわるスピードが速いような気もする。
次に「豆腐のウイスキー味噌漬け」に箸を伸ばす。
甘辛い味噌とさっぱりした豆腐が最高のハーモニーを奏でている。合唱コンクールだったら最優秀賞をとれるほどの調和だ。とにかく味噌が甘くてまろやかで美味しい。レシピの下のほうに、※チーズでも美味しい、ということが記載してあったが、チーズをこの味噌で漬けた場合、世界中からチーズと味噌がなくなってしまうだろう。
最後にメインとなる角煮を食べてみる。
なんというコクだろうか。味に深みがある、など、どこかの5つ星シェフのようなことを言ってしまいそうになるが、いつも調味料を何種類も使って作る角煮よりも、コクがあって甘くて美味しい……! しかも柔らかい。
あのとき、ぷ~んと感じていたハイボールの香りが、全て角煮の中にうまみとなって凝縮されたに違いない。
ウイスキーで作ったおつまみで、ハイボールも進みまくり、食べ終わる頃にはほろ酔いになっていた。自分で作った料理を食べながら、お酒を飲んで酔っぱらうのは気分が良い。
簡単に美味しく作れて幸せな気分になれるなんて、このレシピ本を神棚に飾りたい。
たぶんこのまま寝転がったら寝てしまうなあ、と思いながらベッドに寝ころび、ウイスキーに溺れる夢を見た。
では最後に、わたしを絶望の淵から救い上げてくれた3種の神器ならぬ“3種のおつまみ”を紹介しよう。
もちろん、この3つ以外にも、この本に載っているレシピは幸福を得られる魔法のレシピたちに違いない。と、少々きな臭いことを言うけれど、本当のことだから是非とも信じてほしい。