大賞を取ったときに約束した岡村との「天ぷら」

――『名探偵のままでいて』では、本筋の部分、もしくはトリックの部分で誰かに相談したことってありましたか?

小西 トリックとかは自分で考えたんですが、これで一応、出来上がったという段階での初めての読者は、ナインティナインの岡村隆史なんです。その前に「こんなんで考えてるんですけど」って相談したのは、コント赤信号のリーダーで。

――あっ、渡辺(正行)さん。

小西 そうです。で、そこで言われたのが「探偵役の祖父はカッコいいほうがいい」ということ。テーマが重いだけにキャラクターはスタイリッシュなほうがいいというアドバイスは、まさに目から鱗でした。

――すごい、含蓄のある言葉ですね。

小西 そうなんですよ。「さすがだな」と思って。やっぱり、エンタメの世界が長い方って、なんとなく勘でわかるんですね。岡村くんにしてもそうなんですけど。

あとは、歌人の藤原龍一郎さんという方がいて、作中にも出てくるワセダミステリクラブのご出身なんです。この方には往時の「ワセミス」の空気感とかを教えていただいたり、“そのトリックだったらこういう見せ方のほうが効果的だよ”とか、専門的な見地からの相談に乗っていただきました。

――先ほど、岡村さんのお名前が出たんですけど、応募前の原稿を読んで指摘されたっていうのが、僕の中の岡村さんのイメージとちょっと違ってビックリしたんです。しかも、そこが的を射ていたって。

小西 ズバリ的を射ていましたね。彼、じつは意外と読書家で。放送でもしょっちゅう言ってますけど「東野圭吾にハズレなし」。

――言ってますよね(笑)。

小西 「墾田永年私財法」みたいな言い方で(笑)。本の話になると、絶対に「東野圭吾にハズレなし」。あれ、最初は僕が言ったんですよ!

――そうだったんですね(笑)。

小西 岡村くんから「小西さん、ミステリーとか、どんなん読むんですか?」って聞かれたから、「東野圭吾にハズレなしだと思うよ」と言って『容疑者Xの献身』を貸して。そのほかにもいろいろ貸しましたよ。『新史太閤記/司馬遼太郎』『悪の教典/貴志祐介』『チャイルド44/トム・オブ・スミス』とか。本以外にも『北の国から』『白い巨塔』『相棒傑作選』……これ全部返ってきてないんですよ! 借りパクですよ!

――あはははは!(笑)

小西 変なコントのノリになっちゃったんですよね。最初の頃は「そろそろ『悪の教典』返してくれへん?」と言ったら、岡村くんも「あ、すいません。来週持ってきます」と言ってたんですけど。最近はもう「いえ、返さないです」。目をしっかり見て「返さないです」って(笑)。

――たまったものじゃないですけどね(笑)。

小西 たまったものじゃないです!(笑) でも、最初に岡村くんからLINEで「読ませてください」って言ってくれて、本当に指摘が的を射てたので感謝してます。ただ、大賞を取ったときに、岡村くんが「僕の行きつけの天ぷら屋、美味しいところなんですけど、今度ご馳走させてください!」と言ってくれて。僕もうれしくて、いろいろな媒体でその話したんですよ、そこから3ヶ月、4ヶ月……「いつ連れてってくれんねん!」って。

――あはははは!

小西 これも、どっかでそれを見て“もう行かんほうが面白い”と思ったんやと思います。だから、誌面を通じて言わせていただきたいんです。「天ぷら屋、いつ行くねん!」。

――それも説明なしのコントなんでしょうね。

小西 そうそう。でも確かめてしまうとつまんなくなっちゃうので、面と向かっては言わないようにしてます(笑)。

矢部くんも必ず読んでくれていると思う

――ナイナイさんの話で言うと、相方の矢部さん。僕、矢部さん大好きなんですけど、エンタメに知見がある方という印象がなくて、映画も『仄暗い水の底から』を見たってイメージしかなくて。

小西 あ! イジってるでしょ!

――いえいえ! イジってないです、本も星新一のショートショートしか読んでないとか。

小西 ほら! それもイジってるでしょ?(笑) でも、たしかに矢部くんはね、基本的に「小説読んでると屁ぇ出てしゃあない」って、表立っては言うんですけど。

――あははは!

小西 でもねえ、じつは読書家なんですよ。それこそ西村京太郎さんのアリバイものとか、昔は読んでいましたよ。語彙力もありますしね。だから、たぶん……。

――言わないだけ。

小西 そう、言わないだけ。だから、絶対に読んでくれているとは思うんですけど、そんなことを改めて言うタイプじゃない。ふたりで話すときはなんだろ、もっと深い話になるというか。時々、リモートで飲んだりするんですけど、そういうときの矢部くんは、すごく真面目なんです。

――矢部さんが読書家っていうの、すごく驚きです。あと実は本当に世の中で一番くらい矢部さんのことを尊敬していて。

小西 ちょっとマジですか! そこは逆に理由をお伺いしたいんですけど。ものすごく嬉しいし興味があります。世の中で一番なんですね。

――一番なんです。いろいろあるんですけど、すごく大人で、全くブレないところですね。前に、矢部さんがタチの悪い素人に「相方はおもろいけど、お前はおもんないな、なんやねん」みたいな絡まれ方されたときも「そうなんですよ~、僕ももっと頑張ります」みたいな返しができるって聞いたんです。いくら一般的には岡村さんが目立つと言っても、普通だったら言い返したくもなると思うんですよ。そういう大人なところ、それでいてずっとブレずにいること、昔から今まで、ずっと変わらず尊敬できるところです。

小西 僕が矢部くんの好きなところにも似てますかね。長い付き合いになりますが、あの男がアガってるところを見たことがない。緊張した姿を一切見せないんです。それってすごいなと思うんですよね。もう岡村くんなんかめっちゃ緊張しまくりで、そこが可愛いところでもあるんですけど(笑)。

――可愛らしいですよね、わかります。

小西 矢部くんは、アガらない。すごいんですよ。

▲ナインティナインとのエピソードも披露してくれた