学生時代から放送作家として第一線で活躍している小西マサテル。ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』のヘビーリスナーには「作家の小西さん」として有名だ。

そんな小西氏が、宝島社主催の第21回『このミステリーがすごい!』大賞に一般応募、見事に大賞を受賞した作品『名探偵のままでいて』が、宝島社から今年1月に発売された。認知症の名探偵が“不思議な謎に挑む”この作品は、小西氏の父が実際に患っていたレビー小体型認知症(DLB)の介護をした経験から想起されたものだそう。

今回、小西氏に執筆のきっかけからミステリーへの大きな愛情、さらにナインティナインとのエピソードなどを聞いてみた。

▲第21回『このミステリーがすごい!』大賞の小西マサテルさんにインタビュー

「作家の小西さん」の止まらぬミステリー愛

――作家、しかもミステリーの執筆に至った経緯を教えていただけますか?

小西 子どもの頃からミステリーを書くのが夢で、同じ業界の重鎮である志駕晃さんが『スマホを落としただけなのに』(宝島社)を発表された。これに強く背中を押されましたね。

――『名探偵のままでいて』を読むと、小西さんのミステリー愛が読者にもひしひしと伝わってくると思います。小西さんに大きな影響を与えた作家や作品をお伺いしたく……一括りにできなかったら「この作品においては、この方のエッセンスが入ってる」などでもいいのですが。

小西 いやいや、一括りどころか、今日の取材に向けて細かくまとめてきましたよ!

――ありがとうございます。

小西 本格御三家とされるアガサ・クリスティ、エラリー・クイーン、ジョン・ディクスン・カーっていう、3人の巨匠がいるんですけど。その中で僕の原点はクリスティなんです。もちろん、小学校の頃のホームズであったり、明智小五郎であったり、ルパンであったり……そういうのはあるんですけど。

ただ、今でも鮮明な記憶があるんですが、中1の春、クリスティの『アクロイド殺し』を読んだとき、これは衝撃でした。当時はミステリーのネタバレっていうのがユルい時代で、あらゆる名作のトリックが本で全てバラされていた時代なんです。

でも、この『アクロイド殺し』っていうのは叙述トリックなんですね。もちろん、詳しくは言えないんですけど、これはネタバレしにくいんですよ、作者が読者に仕掛けるトリックなんで。だから唯一、有名なミステリーのなかではネタバレしてない作品で、それをまっさらな状態で読むことができた。

「クリスティ、こんなに面白いのか! じゃあ、短編も読んでみよう」となって、その次に手に取ったのが『検察側の証人』。これは最後の一行でガツン、というやつなんですけど。ラッキーなことに長編・短編のクリスティの代表作を一番最初に偶然読んだ、これで完全にミステリーの沼にハマり込みました。

――一番最初の出会いが大きかったってことですね。

小西 そうなんですよ。その後、クイーンもカーも読むんですけど、クイーンで一番好きなのは『シャム双子の謎』、これはクイーン特有の論理の面白さというより、リーダビリティ。山火事の恐怖に震える震える! 本屋で2時間かけて立ち読みで一気に読んじゃいました。もちろん、あとから買い直しましたよ(笑)。

あと、カーでいうと『猫と鼠の殺人』ていうのがありまして。フェル博士が一貫して知的かつ冷静沈着。犯人との静かな対決シーンがあるんですけれども、これがたまんなくて。言わば名探偵に惚れた一冊ですね。

――名探偵に惚れた……いい表現ですね!

小西 それと、自分は“多重解決もの”が好きで。1つの事件があったら、4~5人の探偵が出てきて“あーでもないこーでもない”って言い合う、それが多重解決ものって言うんですけど。アントニー・バークリーの『毒入りチョコレート事件』とかロナルド・A・ノックスの『陸橋殺人事件』とか、アイザック・アシモフの『黒後家蜘蛛の会』とか。

それから、コリン・デクスターっていうイギリスの作家がいるんですけど、『ウッドストック行き最終バス』から始まる、モース主任警部シリーズ。モースが、“あーでもないこーでもない、やっぱり違う”と、読む側が「いや、それどっちやねん!」みたいな巡って巡ってみたいなのが好きで……ごめんなさいね、飽きてると思いますけど、もうちょっと我慢してください(笑)。

――いやいや、飽きてないです! ミステリーに深い造詣がある小西さんだからこそ、そういう話を聞きたいなと思っていたんですよ。

小西 ありがたいな、今まで誰も聞いてくれなくて(笑)。「こんな本を読んできたんだけどな」って言いたかったんです。

――これまで出てきたのは海外の作家ばかりですが、日本の作家も読まれてきたわけですよね。

小西 もちろん。敬愛と惜別の念を込めて挙げるとするならば、去年亡くなった西村京太郎さん。一般的には鉄道ものや時刻表ミステリーの巨匠ってイメージがあると思うんですが、僕は名探偵シリーズと呼ばれる一連の作品が好きで。『名探偵なんか怖くない』ってのがあるんですね。これは、エラリー・クイーンとポワロと明智小五郎とメグレ警部が3億円事件に挑むんです。

――あはははは! そのあらすじだけで面白そうです。

小西 ね? それは何冊かシリーズがあるんですけど、夢中で読んでいて。だから、やっぱり名探偵が好きなんですね。