レビー小体型認知症を知ってほしい
――香川県高松市出身の小西さんは、小さい頃からミステリーがお好きだった。ただ、高校にミステリー研究会がなくて、落語研究会を覗いたら、そこに南原清隆さんがいて落語研究会に入った、というお話が印象的でした。
小西 よく知ってますね(笑)。でも、ミステリー研究会があったら、絶対そっちに入ってたと思います。いま思うと、中学の頃の校長先生がミステリー好きだったのか、図書館に揃ってたんですよね。高校には全然なくて。
――そこでミステリー研究会に入ってたら、ストレートにミステリー作家を目指されていたかもしれないですよね。
小西 かもしれないですね。そういえば漫画も下手くそなりに描いてたりして、全部それがミステリーものでした。でも絵が下手くそだったんで、ドラえもんみたいな絵面で描いてました。これは初出しの情報です(笑)。
――放送作家さんが自伝的な本出すっていうのはトレンドだと思いますし、小西さんにもオファーが来ていたと思います。僕がやり手の編集者であればオファーしたいくらいですから。
小西 いやいやいや、無いですよ!(笑)
――だから、なんでフィクションなんだろうと思ったんです。でも、小西さんのお父さまがレビー小体型認知症を患っていることを知ってから、この『名探偵のままでいて』を読むと、個人的には完全なフィクションではないんだと感じました。
小西 何をモチーフにして書くかって言うことですけどね。もちろん、父親の病気のことは知ってもらいたいっていうのがあったんですけど、僕は患者でもないし、専門家でも無いわけですよ。しかも、すでに患者さん御自身が書かれた名著がたくさんあるんですね。若年性レビー小体型認知症だった樋口直美さんが書かれた『私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活』や、三橋昭さんが書かれた『麒麟模様の馬を見た 目覚めは瞬間の幻視から』。『麒麟模様の馬を見た』って、すごくいいタイトルだと思いませんか?
――いいタイトルですね。詩的ですし、それだけで症状がわかるっていう。
小西 ですよね!? ノンフィクションは御本人が書いたものに敵うわけがないんですよ。僕が父を献身的に介護したところで、レビー小体型認知症がどういう病気か、ということは世間には広まらない。だから少しキザな言い方になりますが、僕が長年の夢だった“ミステリーを書きたい”というのと、亡父が罹患していた病気の“病名だけでも知ってもらいたい”という思い。それが結実したのが『名探偵のままでいて』なんです。
父親の病気のことをミステリーのテーマにするっていうのは、眉をひそめる向きもあるかもしれないですけど。でも、知ってもらわないことには話にならない、届かないことには何も進まない。この病気については本当に世間に知られてないな、というのが実感としてあります。
もちろん、“知らせるためにミステリー”というよりも、“ミステリーを書きたい”というほうがプライオリティーとしては上なんですけどね。ミステリーを書く、その手段のうちの1つってことですね。
芸人を辞めて放送作家になったときに決めたこと
――ラジオを聴いていると、作家が前に出るタイプのラジオと、そうじゃないタイプのラジオがあって。『ナインティナインのオールナイトニッポン』って、岡村さんと矢部さんで喋っているときは、絶対に小西さんは声を出さないんですよね。『岡村隆史のオールナイトニッポン』のときは、小西さんも少し声を出されていたけど。岡村さんが「あれ……あの、ほら、なんやったっけ?」となっても、絶対に紙で渡してるなっていうのがすごくわかって。作家さんが自伝的なものを書くことは悪いことではないんですけど、このアプローチの仕方はすごく小西さんっぽいと勝手に思ったんですね。
小西 うれしいですね。イヤでしょう? いつもラジオで喋ってないのに、本だといきなりイキり出したら(笑)。芸人を辞めて放送作家になったときに「目立つのはやめよう」「演者を立てよう」というふうに自分にルールを課したんです。
――芸人出身の作家さんですから、前に出ようと思えば出られるのに、そこを自分の中で断ったんだなって、いま聞いていて思いました。
小西 それは別にカッコつけてるわけじゃなくて。んー、何かこう、演者に乗っかって、前に出て喋って邪魔しちゃ悪いというのがあるんですよ。それがスベったら、やってただけに余計にたちが悪い。だから、もう僕が芸人だったっていうのも知らない世代の演者さんたちが増えてから、逆に仕事が楽になりましたね。
――テーマについては先ほどお話をいただきましたが、トリックを考えるのって、まったく違う脳みそなんじゃないかなと思うんですけど。
小西 それについては、たぶん「醸成されてきたもの」としか答えようがないですね。だから、なんだろう……クロスワードを好きすぎて、自分で作る人がいるじゃないですか。あれと同じで、それはもう「癖」。癖でしかないというか。
――なるほど、具体的にどっちが先になるんですか? 例えば、普通に生活していて“こんなトリックいいな”と思ってメモしたりとか、ミステリーを読んでいる際に“俺だったらこうするな”っていう蓄積があって、この本のトリックとして落とし込んだとか。
小西 いや、トリックが先に立つことはないですね。まず書こうと、そこでキャラができて、そのうえのトリックです。そんな何十年も“あのトリックをいつか使ってやる!”って考えているわけじゃないですよ(笑)。
――ミステリーの作り方って想像できないんです。
小西 たしかにそうかもしれませんね。僕はまず、テーマを分けてこういうのをやろう、ならどうしよう……とか、いろいろとメモり始めたところからスタートしました。
――なるほど。それを、この話だったらこういうふうにできるな、というのに変えていく。
小西 そうです、そうです。
――あと、ミステリーの素人としてお訊きしたかったのが、図で説明する箇所が途中で出てくるじゃないですか。こういうのもありがたかったんです。これが無い本も結構ありますよね。これって、ミステリーでは“避けがちなことなのかな”とか改めて思って。あと登場人物の紹介が最初にある本もありますよね。
小西 ありますね。んー、これも好みなんですけど、ミステリー好きな人って「見取り図が大好き」っていう人が多い、図をみるとテンションが上がるっていう方が多いと思います。もちろん、“言葉で説明しろよ、小説なんだから”派もいるんですけど。僕はどっちかって言うと、図があると上がるほうなんですよ(笑)。
――なるほど(笑)。
小西 だから、それで言うと、好みを押し付けたということでしかないんですけど(笑)。