“サイコロジスト”=心の病気を扱う専門家(アメリカでは国家資格)として、主にニューヨークで活躍中の表西恵氏が、日本社会における根強い社会偏見に警鐘を鳴らし、自分自身を追い詰めない、ストレスを緩和させる方法を伝えます。

※本記事は、表西恵:著『アメリカ人は気軽に精神科医に行く』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。

日本人15~34歳の死因は自殺が一番多い

まず、最近の日本人と自殺の関係について見ていきましょう。

日本の年間自殺者の数は、1998年以降14年もの間、連続で3万人を超えるレベルで推移を続けてきました。2012年からは3万人という大台を割り、18年は2万840人と発表されています(警察庁調べ)。

全体的に見ると自殺者全体の実数は減少しています。けれども、注目すべきは自殺者の年代の若年化です。例えば15~39歳の場合、その死亡原因は病気でも事故でもなく、自殺が1位なのです。

まだまだ若く、からだも健康であるはずの若い人たちが「自ら命を絶つ」ということは、将来を悲観してのことなのか、そこにはよほどの事情があるはずです。

雇用情勢や景気の悪化、東日本大震災の影響など、自殺の動機となり得る社会的な要因はいくつか思い当たります。しかしそれらの表面的な理由以外に、致命的な大きな原因が日本人ひとりひとりの心の奥底にひそんではいないでしょうか。

世界的な視点でくらべてみましょう。G7諸国(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダの7つの先進国)の中で、15~34歳の死因の1位が自殺というのは、残念ながら日本だけです(世界保健機関資料より作成した内閣府資料)。15~34歳の死亡率を比較すると、日本人の死亡率はアメリカ、フランス、カナダの約2倍、ドイツやイギリスの約3倍、イタリアの約4倍にも上ります。

皆さんは、このデータを見ていったいどのように感じるでしょうか。

いまだにある「心の弱さ」というステレオタイプ

日本の若者の自殺率の高さについて報じているメディアは少なくありません。しかし、その原因については、明確な分析がされていないという印象を受けます。世論としては若者の「心の弱さ」を指摘する声が圧倒的に多いようです。

「自殺をする人は、もともと気が弱い人」「自殺をする人は、精神力が弱い人」……。

しかしこれらは、ひと昔から言われ続けてきたステレオタイプ(紋切型)のフレーズに過ぎません。物事を一面的にしか捉えていない、非常に表層的な解釈です。

なぜ断言できるのかというと、私が心の専門家であるからです。専門家の立場から厳密に言うと、自殺をする人は「もともと気が弱い人」でもなく、「精神力が弱い人」でもありません。

私は今までに1000人以上の心の病気の患者さんをカウンセリングし、快復の方向へと導いてきました。その中には自殺願望や希死念慮(死ななければならないという思い)にとらわれた人もいましたが、全員をすんでのところで食い止めました。

それらの患者さんと向き合った経験から言うと、彼らに「もともと気が弱い人」や「精神力が弱い人」という形容が当てはまらないような気がしてならないのです。