“サイコロジスト”=心の病気を扱う専門家(アメリカでは国家資格)として、主にニューヨークで活躍中の表西恵氏に、家庭や職場で心の悩みやストレスに苦しんでいる日本人に向けて、「心の病気」に自ら対処する方法について提案してもらいました。
※本記事は、表西恵:著『アメリカ人は気軽に精神科医に行く』(ワニブックス刊)より、一部を抜粋編集したものです。
適度なストレスは人生のスパイス
どうすれば、心の病気を未然に防ぐことができるのか。心の不快な状態や苦しい状況を、自分で和らげ、改善していくことができるのか。生活の中で、すぐに取り入れられる習慣や、思考法をお伝えします。
ほんの少しのアプローチで、あなたの人生は大きく変わり始めることでしょう。心の病気と密接なつながりのある「ストレス」との付き合い方を元にお話していきます。
誤解をされている方も多いのですが「ストレス」とは「あってはいけないもの」というわけではありません。軽度から中度のストレスは上手く利用すれば、生活や人生を良い方向に導いていくトリガー(引き金)になると見られています。
その人にとって、ちょうど良いストレスのレベルを「オプティマル・ストレス」(optimal stress)と呼びます。オプティマル・ストレスの時は、最も意欲的で、注意力、分析力、記憶力も高くなり、爽快感にあふれ、心も身体も常に平静が保たれるとされています。それよりも過剰であったり過小であると、心身に良くありません。
現代では多くの人が、過剰なストレスで悩まされています。ストレスを上手に手放していくためには、ストレスの原因である「ストレッサー」(ストレス因子)の種類を見極めることが大事になってきます。
簡単に言うと、「解決可能なストレッサー」「解決しないであろうストレッサー」の2種類です。
「解決可能なストレッサー」なら、解決のために全力を注げばいいでしょう。
しかし、どう見ても「解決しないであろうストレッサー」だと気づいたら。その解決法を探るというよりも、そのストレッサーと向き合うための自分のリソース(資源)を保ったり、増やしていくことに焦点を当てていくべきです。つまり「解決することを諦める」という潔い決断が必要になります。
問題解決だけがすべてではない、ことを知ってほしい
「解決しないであろうストレッサー」の代表例として、人間関係が挙げられます。
極端な言い方をすると、学校でも職場でも、人間関係にはトラブルがつきもの。まったく人間関係に問題がない環境を探すことは難しいはずです。そこから生じるストレスは慢性的で、半永久的です。
結婚生活がストレッサーになっている場合、離婚をしたらストレスはきれいに無くなります。職場がストレッサーになっている場合、離職をしたらストレスはゼロになります。
しかし実際のところ、そのようなわけにもいきません。したがって、そこの集団に属する限りは、人間関係から生じるストレスを「根本的に解決する」のではなく「やり過ごしたり、受け流しながら、上手く付き合っていく」という姿勢が正解です。
人間関係のような「解決しないであろうストレッサー」については、その要因をひとつひとつつぶして、理想的な職場環境を作っていく」という姿勢よりも「自分自身を鍛え、ストレス耐性を高め、多少のストレッサーと向き合っていく」という姿勢のほうが、現実に則しているのです。つまり、問題解決だけが、ストレスマネジメントではありません。
実際、私はよく「問題解決だけがすべてではない」と患者さんにお話しています。そもそも、解決ができない質のことを「解決しよう」と躍起になるから、ストレッサーになってしまうのです。
もしあなたが誰かの親であったり、職場で指導的な立場にあるなら、このことをぜひ伝えてほしいと思います。「問題は解決しなくていい」と自分に言い聞かせるだけで、心が楽になることが多くあるからです。
「何でも解決しよう」とはせず、「ストレッサーと上手く向き合える自分を作っていこう」と捉えてみてください。