回転寿司チェーン店での迷惑動画などの客テロ、飲食店やコンビニなどでのバイトテロ。経営者にとっては、どちらも頭を悩ませる問題だ。かつて全日本プロレスで活躍したレジェンド・川田利明氏が、ラーメン店をオープンしてから10年以上、試行錯誤していくなかで見つけた“俺だけの教訓”を伝授します。
※本記事は、川田利明:著『開業から3年以内に8割が潰れるラーメン屋を失敗を重ねながら10年も続けてきたプロレスラーが伝える「してはいけない」逆説ビジネス学』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。
店が暇になるとバイトのやることもなくなる
予算を削減しようと考えたときに、俺が真っ先に考えたのは「アルバイトを雇うのをやめる」ことだった。
厨房の中は俺ひとりだけど、店が広いので、本当はフロアにはたくさん店員がいたほうがいい。ただ、そこにもこだわりがあって、最初からバイトの採用条件として「これまでに飲食店での勤務経験がある人」という部分に重きを置いた。
まったくの初心者にやって来られても、こっちは厨房を回すことだけで手いっぱいで、その人たちに指導をする余裕なんてない。だから、即戦力だけ採用した。
たしかに助かった。
でも、やっぱり無駄も多い。
お客さんがたくさんいるときには、本当に助かる存在だったけど、暇な時間帯、それこそお客さんがひとりも来なかった1時間にも、彼らには時給が発生する。俺は暇な時間を利用して仕込みとかをやるけれど、彼らはなんにもやることがない。それでもお金を払うというのは、ちょっとどうなんだろう、と思い始めていた。
しかも夜の10時を過ぎたら、時給を高くしなければいけない。お酒を飲んだお客さんが深夜になっても帰らない場合は、そのままバイトにも残ってもらっていたけど、そうなると、終電がなくなってしまうので、帰りのタクシー代も負担しなければならなくなる。これが予想外の大きな負担になった。
そもそも、経営者とバイトは相容れない存在でもある。
経営者は「お客さんに喜んでもらう」ことを第一に考え、その先にいかにして利益を出して、店を大きくしていこうかと考える。会社でいえば、正社員の人たちもこれに近い考えを持っているんじゃないかと思う。
それに対してアルバイトは「1時間いくら」で働いている。極端な話、外に行列ができて、めちゃくちゃ忙しい1時間よりも、台風が近づいてきて、誰もやってこない1時間のほうが、彼らにとっては楽に稼げることになってしまう。みんなが思っている以上に、天気が集客に与える影響は大きいんだ。特に駅近じゃない店は。
経営者が頭を抱えてしまうような状況を、バイトは喜んでいる、というのはどう考えてもおかしな状況だけれども、この仕組みだけは変えることができない。
回避できない「バイトテロ」を防ぐためには?
昨今、ニュースを賑わせている「バイトテロ」も、こういう構造を考えたら、防ぎようがないということがわかる。
- 調理用の肉を床にこすりつける。
- 刺身をゴミ箱に投げ捨てたあと、それを拾って調理する。
- 調理器具を不衛生な手でベタベタ触ったりする。
……こんな様子をSNSなどにUPされたら、たまったもんじゃない。
本当に忙しい時間帯だったら、そんなことをやっている暇はないから、おそらくお客さんが少ない時間の暇つぶしにやっているのだろう。ものすごく暇だけど、時給は保証されているし、じゃあ、みんなで遊ぼうぜ、というノリになってしまう。「なんで身バレするのに、わざわざ動画でUPするの?」とは思うけどね。
前述したような行為は、飲食店にとっては文字どおりの死活問題になってくるけれども、それはあくまでも経営者としての感覚であり、バイトの子たちにとっては、そんなに深い考えはないんだろう。きっと昔からこういうことはあちこちで起きていて、カメラ付きのスマホが普及し、それを公開できるSNSが広まったから、こうやって騒ぎになっているだけの話なんだと思う。
それでも経営側からしたら、時給を払っているうえに、お店の看板を傷つけられたらたまったもんじゃない。まさに「バイトテロ」だ。どうしても防げないバイトテロだけど、ひとつだけ究極の対策がある。
それは「バイトを雇わない」ことだ。
俺の知る限り、ウチではバイトテロは起きなかったけれど、結果として人件費削減のために、すべてのバイトとの契約を解除した。
さすがにいきなりだと店が回らなくなるので、忙しい週末だけは知り合いの焼き肉店からバイトのおねえさんを借りていたけれども、段階的にそれも打ち切って「厨房は俺ひとり、フロアには店員をひとり」という、コンパクトかつリーズナブルな体制を作り上げた。それは今も続くシステムだ。
もっとも、人件費の削減にはなるのだが、来てくれたお客さんを待たせることが多くなってしまう。それではお店が回りっこない。フロアには対応係がひとりしかいないから、レジで会計をしているときに、新たな注文を受けられなくなってしまうからだ。
そこで俺はある「秘密兵器」を投入することにした。