文句ひとつ言わない秘密兵器とは?

バイトを雇うのをやめ、それでもスムーズに店を回すために導入した秘密兵器、それは「自動券売機」だった。

入店したお客さんは、まずこの券売機で食べたいものを購入してもらう。

これで注文を取る手間も、会計をする手間もすべて省けることになる。これによって厨房にひとり、フロアひとりのふたり体制での営業が可能となった。おかげで人件費を大幅に削除することに成功した。

しかし、この自動券売機がけっこう高くて……ざっくり言うと、軽自動車が一台、買えてしまうぐらいの値段だ。イメージしていたよりも、かなり高かった。

ラーメン屋だと、よくカウンターの上に小さな券売機が置かれているケースも多いけれど、実はあれでも50~60万円はする。値段感としてはウチもそれでよかったんだけど、手作りのサイドメニューが多いのが俺のこだわり。小さな券売機では厳しかった。

結果、かなり大きな……それこそ家庭用の冷蔵庫ぐらいの大きさの券売機が、店を入ったところに設置されることになった。

予想以上に高かったけれど、バイトに支払う人件費を考えた場合、長い目で見たら、確実にこちらのほうが安上がりになる。文句ひとつ言わないし、何よりも「お客さんがいないのに時給を払わなくちゃいけないのか」とイライラすることもなくなる。いろいろな意味で、券売機は導入してよかった。

最近ではこのシステムで営業をしている飲食店が増えてきたので、お客さんにも、そんなに抵抗感もなく使っていただけているようで、特段「不便だ」という声も俺の耳には届いてはいない。

「自動券売機」を導入して初めてわかったこと

▲「自動券売機」を導入して初めてわかったこと イメージ:Fast&Slow / PIXTA

ただ、ひとつだけ難点があった。

これは導入してみて、初めてわかったことなのだが、とにかく初期設定に時間がかかって大変なのだ。

メニューボタンの部分には、とりあえずメニューを書いた紙を差し込めばいいのだが、それはあくまでも機械の「表」の話。機械に「このボタンを押したら、この食券を出すように」と理解させるために、いわゆる暗号みたいなものを入力するのだが、それが非常に面倒なのだ。

たとえば「鶏白湯(とりぱいたん)ラーメン」と登録する。キーボードで「鶏白湯ラーメン」と入力して終わり、というイージーなイメージだったのだが、やっぱりお金を扱う機械だけに、とにかくセキュリティーが厳しい。1文字登録するごとに、暗号を4つも入力しなくてはいけない。

ひとつのメニューを登録するだけでも手間のかかる仕事なのに、サイドメニューからドリンクまで入力していったら、その作業だけに没頭しても一日仕事になってしまう。きっと普段、なにげなく利用しているジュースの自動販売機も同じようなシステムになっているのだろうが、こうやって自分の店に導入しなかったら、こんな苦労は一生、知ることはなかっただろうね。

お金の管理もするのだから、冷静に考えたら当たり前の手間なんだろうけど、子どもの頃からボタンを押せば、そこに表示された商品が出てくるのが日常の光景になっていたから、本当にびっくりした。

もちろん、業者に頼めば、すべて設定してくれる。……くれるのだが、これだけ手間がかかるということは、当然のことながら、値段もかなり高い。大手チェーンが大量に購入したらサービスでやってくれるかもしれないが、個人の店ではそうはいかない。

人件費を削減するために券売機を導入したというのに、こんなことにわざわざ高いお金をかけていたら本末転倒だ。エアコンも機械代以外に設置代や古い機械の引き取り代を払わなきゃいけないよね。世の中は本当にお金がかかる仕組みになっている。でも、機械の値段が高いので、これ以上、お金を遣うわけにはいかない。

というわけで、延々と機械に暗号を打ち込む、というラーメン屋とは無縁のように見える作業を、俺は定休日にコツコツとやっていた。

本音を言うと、お金を払ってでも業者にやってほしい。でも、ウチは定期的にメニューを入れ替えるから、そのときにはまた変更しなくてはいけなくなるわけで、自分でできるようになっておいたほうが絶対にいい。

こうして「麺ジャラスK・第三の従業員」となった自動券売機。そろそろ元は取れたような気もするが、文句も言わなければ、ズル休みもしない分、ある日突然、故障して動かなくなってしまったらどうしよう、という恐怖心はうっすら抱いている。

部品交換だけで5万円もかかったのだが、それ以上にあまりにも頼りすぎているので、もし営業時間中に動かなくなってしまったら……と考えるだけでゾッとする。