「ポップしなないで」は自由な表現の場

――かめがいさんとかわむらさんの音楽のルーツって、どういうところにあるんですか?

かめがい 高校生の頃にアイルランドに住んでいたことがあるんですけど、バステッドみたいなポップパンクがすごい好きでした。大学に入ってからはバンドサークルに入っていたので、いろんな人がいろんな音楽を聴いている環境ということもあって、みんなで教えあったりとか、誰かが演奏しているのを見たりとかしながら、さまざまな音楽に触れていった感じでしたね。

今、特に大好きなのはコトリンゴさんで、ずっと憧れています。ピアノで曲作っているというのもすごく好きですし、ピアノの重ね方やコードの積み方などは少し意識しています。あとは親の影響で中学生の頃からビートルズが好きで、コーラスワークの重ね方はビートルズの後期の重ね方を意識するときもありますね。

かわむら 中高生のときは、ただの音楽好きでしたね。初めて買ったCDはHi-STANDARDの『MAKING THE ROAD』で、中学生の後半になるとミクスチャーロックにハマってリンプ・ビズキットとか、日本だとマキシマム ザ ホルモンとか若者らしい曲を聴いていました。

でも、ポップしなないでの音楽の根底にあるのは、ヒップホップの文脈にあるサウンドだったりするんです。例えば、ビースティ・ボーイズとMOROHA。彼らからは、かなり影響を受けていますね。

――お二人とも活動の軸は複数存在していますが、ポップしなないではどういう表現の場となっているのでしょうか?

かめがい 今の音楽活動はポップしなないでだけなんですけど、お芝居と歌には似ているところもたくさんあるんです。もちろん、違うところもたくさん、歌ってある意味制限されているんですよ。正しいメロディと正しいリズムが基本的にはあるので、それを大きく変えたら、単純に別の曲になってしまうんです。

そのなかでも、どのぐらい自由に表現できるのかとか、自分が歌う意味はどこに存在しているのかとか、そういう部分に関して音楽はかなり自由なんですよ。しかも、昔と違ってサブスクで自由に聞くことができるので、いろんな人に届きやすかったりとかして、そこには音楽の面白さを感じています。いろんな人たちとコミュニケーションを取れるツールという感じですね。

かわむら 他のロックバンドと同じようにトーンやマナーはあるんですけれど、すごく自由に音楽と接することができるし、音楽を通じて双方向のコミュニケーションを取ることができる場なんです。なので、僕にとって音楽的な探求心を満たせる場所です。

▲二人とって「ポップしなないで」は自由な表現の場

サウンドのこだわりが詰まっているアルバム

――ピアノとドラムスを軸にしたシンプルなバンドサウンドを基調に、サウンド的にも挑戦もありつつ、かなりバラエティに富んだ楽曲が収録されたメジャーデビューアルバム『戦略的生存』ですが、お二人にとってどんな作品になりましたか?

かめがい 今言ってくださったみたいに、いろんな曲が入ってるんですけど、1枚のアルバムになったときに、ちゃんと芯の通ったアルバムになったと思っています。どこか知らないところで聴いてくれている、顔も知らない誰かの寂しさに寄り添うような曲たちが揃いました。1枚の作品として12曲通して聴きたくなるようなアルバムになったんじゃないかなと思います。

かわむら アルバムが出たときに、周りから似た曲ばかりだと言われたらどうしようと思っていたんです。それくらい自分の中で音楽の軸があって作ったアルバムだったんですけど、結果としていろんな方がいろんな曲があると言ってくれているということは、1曲1曲がたとえ単体でリリースされたとしても、すごく存在感のある曲になっているということなので、そこはやはりうれしかったですね。

かめがい 本当によかったね〜。

かわむら というのが全体的な印象なんですけど、アルバムを通して考えると、思想もそうなんですけど、ここ1年のサウンドのこだわりをちゃんと詰められたというのが大きいですね。

――メジャーデビュー作ということで、これまでと制作に取りかかる心境は変わりましたか?

かめがい 私はあんまり変わらなかったですね。特に“メジャーデビューアルバムだからこうするぞ”というよりは、結果として“メジャーデビューアルバムっぽくなった”みたいな。

かわむら 自分もそうですね。メジャーデビューアルバムを作るために曲を作ったわけではなくて、会社が何を言わずともアルバムが出た際には、我々はもう次のアルバムを作り始めているし、その制作を通して自分たちの音楽をレベルアップさせて、ずっと良いものを残していきたいと思っていて、偶然タイミングが重なったという感じです。

――どういう思いで、このタイトルにしたのでしょうか?

かわむら このアルバムには我々の1年間の制作の全てが詰まっているんですけど、ライブをしていくなかで「なぜ人生において音楽をやっているのか」みたいな話になってきて、結局、我々がどうやって生きるのかみたいな話になっちゃうんですね。

それって、どの仕事の人でもそうだと思うんですよ。それがたまたま我々は音楽が人生に組み込まれていて、そのなかで自分たちの思想をみんなに共感してほしいとか、自分の頭の中を見てほしいってなったときに、自分たちの音楽を聴いてくれた人と我々は仲間になりたいんです。

それはメディアの方でもそうですし、スタッフやリスナーの方もそうなんですけど、みんな同じ時代を生きて、みんなで死ぬじゃないですか。そうなったときに、みんなで同じことを共有するというのは、音楽の役目として大きいことだと思うんです。

かめがいさんとそういう思いで考えていたんですけど、我々が心がける戦略的な生存と、それをみんなで共有したいということで一番ピンとくる言葉だったし、温度感が合っていたのでタイトルにしました。

▲『戦略的生存』のタイトルに込められた想いを語ってくれた