昆虫キッズでフロントマンを務めていた高橋翔。2015年1月に活動終了してからは、ELMER、1000%SKYなどのバンドで活動していたが、2022年にソロ活動を開始。2023年1月にはファーストアルバム『イシュ』をリリースした。

作詞・作曲・編曲から、ほぼ全ての楽曲の演奏を自らが行った同作は、ローファイでありながら、ロックンロールの醍醐味が詰まったアルバムに仕上がっている。今回、ソロアルバムのリリースに至った経緯から、今後の展望などを高橋翔にインタビュー。

アントニオ猪木へのアンサー“元気があれば何ができた”

――ソロの作品を作ることになったきっかけを教えてください。

高橋翔(以下、高橋) ELMERがあって、1000%SKYがあって、次は一人でやろうって自然になったというか。継続しなかった、というのが大きかったかなと思いますね。

――ちょっと心配だったんですよね、翔さんが飽きっぽいのも知ってるので(笑)。

高橋 (笑)。時間はかかったけどね、でも結果的によかったかなと思いますよ。

――タイトルの『イシュ』、すごく残る響きだなって。

高橋 きっかけとしては、友達と食事をしているときに「イシュ」って名前の外国人の恋人ができたって話を聞いて、それがずっと耳に残ってて。それで意味を調べたら論点や問題みたいな意味もあるし、日本語でも「意趣」「遺珠」とか、言語をまたにかけて、いろいろ意味があったんですけど、全てアルファベットにすると「ISHU」だったんです。ダブルミーニング。

――受け手も深読みできるタイトルなのがいいし、単純に響きがいいですよね。あと、やっぱりジャケもカッコいいなって。ブルース・スプリングスティーンの「BORN TO RUN」ですよね、これ見て、そういえば昆虫キッズの現時点での最後のライブも、SEが「BORN TO RUN」だったなあって。

高橋 アルバム『BLUE GHOST』のツアーは、全会場のSEが「BORN TO RUN」だったんですよね。で、このアルバムのテーマって、自分の中のロック、音楽としてのロックミュージックを回帰させるって思いがあって、僕の中でロックっていうと、まず最初に出てくるのがスプリングスティーンだった、ってだけの話なんですけど。ていうか後付けですね、残念ながら(笑)。

――ええ!(笑)

高橋 だって、最後まで刀を担いでる写真は迷いました(笑)。刀持ってたら、もう全然スプリングスティーンじゃないし。

――実際に一人でやられてみてどうでしたか?

高橋 全て自分の機嫌や気分次第でしたね。こんなこと言うと元も子もないんだけど、自分の裁量でできるし、ケツも叩かれないし。それがよかったかどうかは自分の中ではわかんないですね、こうなる運命のアルバムだったんでしょう。

――例えば、これがコロナ禍で、他の人も絡むプロジェクトだったとしたら、自分のモチベーションと世間や周りとの動きが噛み合わなくて、しんどくなったりすることもあるのかなって。

高橋 そうですね。そういう意味では運良く影響がなかったので、それはよかったかなって思いますね。

――『キセキ』が出たときに、そのままの流れでアルバムまで行くかなと思ったんですけど、そこでも少し間が空きましたよね。

高橋 スクラップアンドビルドを繰り返すようになってたんですが、アントニオ猪木さんが亡くなったのが自分の中では大きかったですね。その少し前にアルバムのラストの曲のリリックを書いてて、猪木さんの“元気があればなんでもできる”に対して“元気があれば何ができた”って歌詞を書いてて。そのあとすぐに亡くなられたんで、もうこれはすぐやんなきゃって。これで今、気合いいれてやんなきゃ嘘だろって思いました。

――翔さんは1984年生まれで自分と変わらないからわかるんですけど、すでに物心ついたときは議員活動してて、しっかりとした全盛期って見てないじゃないですか。それでもアントニオ猪木という人間に惹かれたのはなぜですか?

高橋 たしかに現在進行形の新日本プロレスは見てるけど、アントニオ猪木世代ではないですよね。引退試合の印象が強いくらい、しかもドン・フライとやるのかよっていう(笑)。でも、やはりプロレスラーっていうものを最初に認識したのはアントニオ猪木なんですよね。プロレスラーでありながら、国会議員もやって、テレビタレントもやって、興行プロデュース的なこともやってる。いきなりヘリからパラシュートで降りてくる(笑)。

――2002年の「Dynamite!」(笑)。「ヘリからへりくだってまいりました」って。

高橋 (笑)。支離滅裂なところもあるけど、もうアントニオ猪木という存在がハイコンテクストすぎる、説明しなくてもアントニオ猪木だから通じちゃう。それに強く惹かれたのかなって思いますね。

――亡くなってから猪木さんのことを語る記事や書籍がたくさん出てますよね。御本人は普段はプロレスのことは話さず、それこそ環境問題の話とかしていて、プロレスの話はずっと聞き役だったみたいですが。

高橋 そういう猪木の感覚がいいなって思いますね。他人を愛しているけど信用していないというか。人に依存しないぶん、圧倒的に孤独なんじゃねえかって思いますね。こんな人もう出てこないんだろうね。