「戦略なき企画会議」を体験して・・・

その後の研修でも、会社内の様子を注意して見ていましたが、全体的に方向性や優先順位、根本的なビジョンが会社の戦略として定まっておらず、各従業員が好きなようにチームを組んで自分好みの服を作っているように感じました。

「どんな会社にしたいか」「どういうブランドにしていきたいか」というビジョンの共有ではなく、社員みんなの「やりたいこと」をボトムアップ的に足しただけの漠然としたものを目指している、という印象でした。

はっきり言ってしまえば「戦略の欠如」です。

重役クラスの社員たちは典型的な体育会系で「何事も気合と根性でなんとかなる。とにかく一人ひとりが力を出してがんばって良い物を作れば、結果なんてあとからついてくる」というタイプの発想をしていました。

ただ、当時流行だった「戦略的に攻める」「戦略会議」といった用語が、重役クラスでは頻繁に使用されているなとも感じていました。

最終日には、研修を担当していただいた営業部長・課長と会同の場で、じっくりと意見交換する機会がありました。私は、まず企業イメージの良さやブランド力の強さなどを褒めました。アパレル企業に勤めていた経験のある妻から、いろいろと情報を入手していたため、かなり具体的に意見を伝えることができたと思います。

続けて、先の企画会議で感じたことを踏まえ、今後、社内でチームビルディングをする際には、御社の社是(たしか「服飾によって日本女性の美に貢献する」という旨のものだったと記憶しています)やブランドの方向性を具体化すること、プロジェクトリーダーに求められる人物像、販売店の顧客情報の収集と活用法などについて、思うところを率直に述べました。

その内容は、おおよそ次のような主旨の提案でした。

  1. 企業のビジョンを明確にして、全体最適からみた個別最適を追求すべき
  2. 個別最適のみの追求に走りがちな各現場をコントロールして、組織の全体最適を達成できるような人材を育てるべき
  3. 可能であれば全体最適を追求する専門部署もつくったほうがよい

営業部長は私と意見交換をしているうちに、前向きで熱心に聞く態度からだんだんと不機嫌になり「社内にはそもそもそのような人材はいないし、人事異動を含めて組織をつくり出すのは不可能だ」と怒り出しました。一緒にいた課長も部長に同調しました。

「言葉で率いる」姿勢が欠けている日本の企業

▲「言葉で率いる」姿勢が欠けている日本の企業 イメージ:Fast&Slow / PIXTA

私としては、ただ会社がより良くなればと思って、率直な意見を述べたつもりだったのですが、「シロウトの部外者から生意気に好き勝手なことを言われた」と受け止められたのかもしれません。ちなみに、自衛隊退官後も、企業の方と意見交換をした際には、同様の反応を示されたことが何度かあります。

研修から数年後、そのアパレル会社は潰れました。

もちろん、その原因が先に述べたような「戦略(ビジョン)の欠如」だけにあったとは言えません。おそらく、他にもさまざまな事情があったのでしょう。しかし、大きな一因であったことは確かだと思います。

そもそも組織には戦略という“柱”が必要であることを、多くの日本企業の経営陣はあまり気づいていない(あるいは重視をしていない)のではないかと感じます。

そして、その戦略に方向性を与える企業理念や社是といったものは、形式・建前・お飾り的な単なる“言葉”として軽んじられ、売上や利益といった“数字”だけが重視される風潮があります。

特に、いわゆる「現場」で働いている従業員の人たちほど、その傾向が顕著です。日々、数字を追いかけている(あるいは数字に追われている)と、そうした言葉の重要性をなかなか実感できないのかもしれません。

「こんな企業理念や社是なんて、現場ではなんの腹の足しにもならないよ」と思いながら、毎朝、機械的に朝礼で唱えている人も少なくないでしょう。

確かに数字は具体的で明確です。しかし、それ自体は戦略やビジョンにはなりえず、フォロワー(部下)やチームメイトの自主積極的な行動を促すものでもありません。一方、言葉による目標やビジョンは曖昧になりがちですが、従業員やフォロワーに行動の指針を与え、彼ら・彼女たちの自主性・積極性を引き出す力になりえます。

日本の多くの企業には、この「言葉で率いる」姿勢が欠けています。

これは企業のみならず、政治や行政、教育、スポーツの世界など、日本社会全体にも少なからず言えることです。