あのコントは冴羽獠になりたかったから作った

――もともと漫画が大好きだったという田所さんですが、ライスのコントにも漫画が大きく影響しているそうですね。

田所 パッと思いつくのは『ジョジョの奇妙な冒険』の、あの特徴的な台詞回しですね。「〇〇ってェ、わけじゃねえんだぜ」みたいな言い方がユニークで、コントにもたくさん反映させました。

あとは『シティーハンター』に影響されすぎて、一時期ライスのコント8割くらいに拳銃が登場してたこともあります(笑)。『キングオブコント』で披露した「命乞い」というネタも、屋敷に侵入してくる男役はモロに冴羽獠を意識していたり。

〇【ライス】コント/命乞い【ネタ】

――ネタの構造とかではなく、そのまま反映させるスタイルなんですね。

田所 自分が冴羽獠になりたいだけなんですよ。『ジョジョ』のセリフも、日常では言えないけどネタとしてなら成立するじゃないですか。そんなことができちゃうのも、自由度の高いコントならではですよね。

――逆に、初めて漫画原作を手がけてみて、コント作りの経験が活かされたことはありましたか?

田所 初めは“コントの作り方に近いのかな”と思っていたんですけど、実際に書き始めると全然違うことがわかりました。僕の書くネタはステージ上で展開されるものがほとんどなので、基本的にワンシチュエーションなんですよ。やり取りも二人だけで進んでいく。

でも、漫画の場合は、いろんな場所で展開されていくし、視点も変わってくるし、登場キャラクターも多いので、そういうところがコントと違う筋肉が要されます。苦労したと同時に、面白さを感じたところでした。

▲原作を担当したことで漫画家へのリスペクトを改めて感じた

原作を担当して改めて感じた漫画家へのリスペクト

――作画を担当した海野悠さんとは、どのように共同作業しましたか。

田所 僕、海野さんとは実際にお会いしたことがなくて。というのも、海野さんは福岡に住んでいらっしゃるんです。でも、僕の書いた原作から考えを膨らませてくれたり、ライスのYouTube動画やトークから蒲田のリサーチをして、僕らのツッコミを作中に登場させてくださったり。そういう意味では、福岡に住んでいらっしゃる方なのに、蒲田の情景をあそこまでリアルに再現していて、本当にすごいなと感動しました。

そういう方とご一緒させていただくことで、改めて漫画を作っている方々へのリスペクトが増したので、今回のオファーをお受けしてよかったなと心底思いましたね。

――以前のインタビューで、コロナ禍でスケジュールがキャンセルになったなかで「前あった仕事を戻すというよりも、新しいものを模索する。その貴重なチャンスだとも思ったんです」と仰っていました。漫画原作もその一環ですが、新たなジャンルに挑戦することの魅力はどんなところにあると感じられていますか。

田所 芸人にもいろんなタイプがいて、新しいものを始めるより与えられた仕事を一生懸命やり遂げる人もたくさんいるんですよね。一方で、コロナ禍に「これはチャンス」と未経験のジャンルを開拓しにいった人も多かったと思います。例えば友人のバイク川崎バイクは、ショートショートを書いて本を出してヒットしたり。

僕もコロナ禍に“何か始めよう”と思って、豆苗を使った「豆苗アート」をやってたんですけど、これが1ミリもバズらなかった(笑)。でも、逆にそこから何も怖くなくなったんですよね。一度大恥をかいちゃうと、あれ以上の失敗はないだろうって。なんでもできるようになったと思うんです。

先ほどもお話したとおり、漫画原作のオファーをいただくきっかけになったのは天津・向さんのライブだったんですけど、向さんに「脚本を書いてみないか」とお誘いいただいたときも「朗読劇の脚本を書いてみたことはないから、大丈夫かな」と、ちょっと迷ったんです。

でも、そこで勇気を出してやったことによって、今回のお話につながった。恥を恐れずに、とにかくチャレンジしてみることが大事なんだなと、改めて実感することができました。

▲『異世界蒲田』ぜひ読んでください!

プロフィール
 
田所 仁(たどころ じん)
1982年10月28日生まれ。東京都出身。吉本興業株式会社所属。東京NSC9期生。高校時代の同級生であった関町知弘とお笑いコンビ・ライスとして活動、2016年にキングオブコント優勝を果たす。2017年『映画プリキュアドリームスターズ!』で声優に初挑戦。同期のしずる、サルゴリラ、ライスの3組で「メトロンズ」というユニット演劇の公演を半年に1回行うなど演劇の脚本、ネタ台本作成など、執筆活動も積極的に行っている。Twitter:@tadokorojin、Instagram:@tadokorojinrice、Youtube:ライスチャンネル【公式】