テレビでよく言われる「コンプラ問題」って?

――コンプラに関して言うと、近年、テレビでバラエティ番組なんかを見ていると、しきりに「コンプラが厳しくなって面白いことができない」みたいな言葉が聞かれます。これって具体的にはどういうことなのでしょうか?

山本 2022年の4月、BPOの青少年委員会が「『痛みを伴うことを笑いの対象とするバラエティー』に関する見解」という意見書を出したんです。コロナ禍だったので、報道する側の記者もじっくり取材できていなかったせいか、審議の意味合いを誤解したり、意見書を部分的意図的に強調したような報道が多かったと感じました。「芸人が追い詰められる」とか「ものまね番組も消滅危機?」といった見出しですね。

これをテレビ制作現場やタレントさんたちが「コンプライアンスが厳しくなったから面白いことができなくなったよね」と過敏に受け止めたところがあると思っています。僕はBPOの担当もしていたので、いろいろな方のお話を聞く機会もありましたが、これは従前の“笑い”を完全に否定するものではないと受け止めています。

ハリセンやケツバットがNGというような単純な話ではなく、誰かを貶めてあざ笑ったり、人の欠点を取り上げてネタにしたり、そういった“カラッとしていない笑い”に対しての指摘や意見だと思います。それを「突き抜けたことができなくなった」と、放送する側も含めて重く受け止めすぎた人たちが一部いることは間違いないと思いますし、タレントさんにも正しく伝わらなかったのだと思います。

もうひとつ、世間から「テレビがこんなことしていいのか」という〝圧力〟のような意見が増えている傾向もあります。それに対してテレビ局側も「なるべく面倒なことは言われたくない」という空気があるかもしれません。でもそれは「社会の流れに沿ったものを作りましょう」という結果であって、けっして放送界が自ら表現を厳しく規制しているということではありませんし、それは表現の自由の観点からも決してあってはいけないことだと思っています。

――テレビについては、昔に比べると視聴者の見方もずいぶんと変化していると思います。それは長年現場にいた山本さんも感じますか?

山本 感じますね。放送したことに対する意見というよりも、ご自身の知っていることと比べての意見が増えているように思います。もちろん、さまざまな考え方があっていいのですが、自分の意に沿わないと「テレビがそういうことを言っていいのか」というような抗議の形になってしまう。それはひとつの意見としては受け止めつつも、情報の精査の仕方としてはちょっと違うのではないか。そう思うところはありましたね。

――大人にとっても情報を正しく選ぶことが難しいのですから、それをさらに子どもに伝えていくって本当に大変ですね……。

山本 ただ、今の子どもはデジタルネイティブ世代ですから、短時間で情報を集める能力がとっても高いんです。だから間違った方向にさえ行かなければ、そして一定の倫理観を持って判別する能力を身につけられれば、それはそれで新しい世代の価値観になるのではないかと思います。

――最後に、今後はどのようなお仕事をされていきたいですか?

山本 今回、編集の方から「子ども向けで行きましょう」と言われて、ありがたいことに、僕自身の中にいろいろな発見があった。子どもに情報のリテラシーを伝えられるよう大人の意識も向上しないと、問題解決の糸口が見えない。漠然とではありますが、今後そういったところにも尽力できるといいですね。


プロフィール
山本 一宗(やまもと・かずむね)
1964年兵庫県神戸市出身。 1988年に讀賣テレビ放送(株)入社。報道記者として神戸連続児童殺傷事件、 和歌山毒物カレー事件や金融機関再編などの取材を経験し、その後 「THE ワイド」 「情報ライブ ミヤネ屋」 プロデューサー、 「ウェークアップ!ぷらす」チーフプロデューサー、報道局統括デスクなどを歴任。2019年より放送基準に基づく番組・CMの表現考査、 SNS利用指針作成などに従事。2021年よりコンプライアンス総括責任者(総括役) として社全体の危機管理・考査判断を担当。2023年3月まで讀賣テレビ放送(株)ESG推進局専任局次長。2023年春に読売テレビを退社し、株式会社CompLaboを設立。報道からワイドショー、スポーツまで多岐にわたる現場経験と、番組・CMの豊富な事例・考査判断という実務経験を、テレビ、ネット、オウンドメディアなどの媒体価値・コンテンツ価値・広告主や情報発信側の企業価値・消費者の生活価値向上につなげることを目指し活動中。