大人も情報を見分けるトレーニングが必要
――4章に書かれてあるような、嘘のニュースや怪しい広告の見分け方などは大人も身につけておきたい知識です。私自身も「やせる薬」の広告が流れてきたら買いそうになっちゃいます(笑)。
山本 たとえば、SNSで流れてくる情報や広告については、むやみに信じず一度立ち止まって疑ってみる、本当かどうかをチェックするにはどうしたらいいか、そういったことを考えるのが大切ですね。SNSの広告表現に関しては、「えっ? これ大丈夫なの?」と思ってしまうものも多く、大人にも判断が難しいです。景表法(不当景品類及び不当表示防止法)や薬機法(医薬品医療機器等法)に触れるような表現が、わからないような形で子どもたちの目に入るというのは、ある意味とても心配で不安なことですよね。
そして、僕がもうひとつ懸念するのは、現実とフィクションの境目がわからないこと。例えば特撮的に撮影された映像が現実なのかフィクションなのかCGなのかというのを、どうやって子どもたちが判断すればいいのか。。映像にしろ文字にしろ、ネットの情報は刺激となっていい表現がある一方で、意図があいまいで間違った知識を植え付けかねないものが玉石混交になっているので、そこは親としては気になるところではないでしょうか。
――“考える”ということが大切なんですね。
山本 いろいろと情報を重ね合わせて考える力は、とても大切だと思います。たとえば最近、“マスゴミ”だなんてテレビがすごく批判されますが、テレビから流れる情報に対してリテラシーを持っていれば問題ないわけです。僕がテレビの情報をある程度信用できると思うのは、裏付け取材や事実確認という仕事を「長くやってきたから」という1点に尽きるんですね。
政治的公平性や多角的な意見を取り入れるというレギュレーションがかかっている媒体というのは、じつはテレビだけです。新聞にも雑誌にも本にもネットにも、そういうレギュレーションはいっさいありません。なのに、十把一絡げに“マスゴミ”として批判されている。
「テレビは嘘を言っている」「テレビは偏っている」と断罪するのは簡単ですが、情報の精査という視点で考えるとこういった批判はどこかずれているのではないかという思いがあります。そういうことも含めて、ネットに特化するのではなく、テレビもひとつの情報源として重ね合わせて考える。本当に知りたい情報を突き詰めたいとき、正確性・真実性や根拠を確認したいときに、そこに対してどんな意見があるかを含めて考える力がないと、物の見方はどんどん狭くなってしまうと思います。
――新聞を読んでいない人、テレビを見ていない人も多いですよね。情報はあふれているのに、いろいろな角度から情報を得るということが難しかったりするのではないでしょうか。
山本 僕が若いときは、新聞やテレビぐらいしか情報源がありませんでしたが、何がよかったかというと、自分が知りたいと思わない情報も目に入るということなんです。自分が気になる、知りたいニュースが全体的な位置づけのなかでどこにあるのか。新聞なら何面に載っているかとか、一面にはどんな文字が躍っているかとか。社会全体で起きていることが、おぼろげながら頭に入ってくる。これってすごく重要なことだと思うんです。
いまのネットがそうなりやすいように、自分が知りたい情報だけを引っ張り出して、自分が気持ちいいと感じる意見だけに囲まれていくと、情報が正しくジャッジできなくなると思うんです。といっても「テレビや新聞を見ましょう、信用しましょう」と言いたいのではなくて、それらも参考にしながら「情報の正確性を確認するのが大事」というのが伝えたいところです。
――情報を見比べて正しく判断するうえで、今なら何を参考にするのがよいでしょうか。
山本 広く浅くですけど、僕はYahoo!ニュースの全トピックの見出しを必ず見たりしています。とはいえ、Yahoo!ニュースのトピック選びもある程度「選ぶ人」の意図が入っているので、「国内」「国際問題」「スポーツ」などの第2階層のタブまでクリックして、そこにどんな項目が並んでいるのかまで見るようにしています。
――Yahoo!ニュースなどは、さまざまな媒体の記事が集まっているので、多角的に情報を見るのに役立ちそうですね。
山本 もともとのニュース提供者がさまざまな考えを持っているので、すごく偏った記事もあれば、フラットに書いている記事もある。世の中で何が起きているのか、どんな考えがあるのか、それに気づくことが大切だと考えています。
「メディアってそういうものだよね」という視点で、情報を幅広く見るトレーニングが必要ですし、テレビではそれが短時間で手軽にできますよね。NHKの7時のニュースを見て、もうひとつくらい民放のニュース番組を見れば、だいたいは網羅できると思います。