なんで俺がジャニーズの売れっ子に仕掛けんねん!
スタッフさんに仕掛けの説明を聞く。詳しくは言えないのだが、私1人で4人の芸能人を一気に騙すドッキリだった。
場所は地方にある廃校。学校をまるまる借り切ったというから、私にとっては経験したことがない大規模ロケだ。
先に現地入りした私に、スタッフの女性が私に近づき、そして囁く。
「これ〇〇百万円かかってます。絶対に成功してください」
まさかと思ったが、スタッフさんの多さとカメラの多さを見て笑えなくなってきた。他の出演者を待ってるときに、今まで味わったことがない感覚に陥った。
「え? ミスったら俺のせい?」
思わずスタッフさんの前で口がすべる。
しかも、そのドッキリは瞬間ドッキリではない。例えば「落とし穴に落ちる」というスタイルなら、一瞬で終わるが、私に任されたのは一人一人に近づき、仲良くなってから、ジワジワと騙していくというものだった。ロケ先まで来たというのに、絶対に聞いてはいけない質問をディレクターにしてしまう。
「本当にこれを僕がやるんです? むしろ僕が仕掛けられてるんじゃないんですか?」
もし本当にそうだったらどうするんだ。何もかもぶち壊しだ。それくらいテンパっていたのだろう。幸い本当に仕掛け側だったみたいで、仕掛けられる人間が到着する。ああ、無邪気に笑ってやがる。私の気もしらないで……。
そして収録が始まる。お笑いとは違う脳みそを働かせ、言葉も一つ一つ気をつかい、さらにカメラの位置にも気をつけ、全員を誘導する。
途中でスタッフさんが慌てて駆け寄ってくる。そして小さな声で言う。
「みなみかわさん、仕掛けを一つ忘れてます!」
あ! 大事な仕掛けを忘れていた。思わず叫びたくなった。
「なぜだ、なぜなんだ。なぜ、私にドッキリを仕掛けない!」
私の顔を見てくれ。言いたくないが仕掛けられたらいい泣き顔をしますよ。デカい体を大きく動かして最高のリアクションをとりますよ。ちょっとくらいなら血が出ていいです。
根っからの仕掛けられる側なのよ。なんで仕掛けられる側にジャニーズがいるんだよ! なんで俺がジャニーズの売れっ子たちに仕掛けんねん!
しかし私もプロの端くれだ。その心の叫びを声帯の奥にしまい、「焦ってませんよ~」とばかりにさらっと軌道修正をする。そしてなんとか大きな事故もなく無事終了した。
だが、もちろん不安だ。成功したかはわからないが、成立はしたのだろう。ということで、またまた編集という神の手にすがるのだ。
それは仕掛ける方も仕掛けられる方も変わらないんだなぁ。
(構成:キンマサタカ)