20代のADを審査員に加えたことでの発見

――今回、約130組がエントリー。インタビュー時点ではノックアウトステージに進出した32組から16組に絞られましたが、その前の予選(選考会)ではどんな審査をされたんですか?

日置 選考会は日程が分かれているし、見るお客さんも違うし、偏りが出てしまう場合があるので「その場でノックアウトステージ進出者を決めるのをやめよう」と思ったんです。ただ、予備選考として、放送作家、ディレクター、あと20代の女性AD2人に10点満点の点数をつけてもらいました。

ADには「フラットに見て面白いと思ったら10点つけていいし、面白くなかったら6点でも3点でもいいから自分の判断でつけてみて」とお願いしたんですが、やっぱり僕らのようなお笑いにずっと触れてきたオジさんディレクターや、放送作家とは違う目線があって「あ、このネタに10点つけんだ」とか「これはあんまり面白くなかったんだ」という発見があったんです。

彼女たちが10点つけたってことは見るに値する、だからみんなで別の日にVTRを見直しましたし、ほかにも「みんな5点だったけど、1人が9点つけているから、もう一回見よう」と再度確認して、意見を言い合う……みたいなこともありましたね。

――素晴らしい選考方法だなと思いました。そして、開幕戦のノックアウトステージ32組からは、審査をお客さんに委ねたのも驚きました。

日置 本来であれば、ベテランの芸人さんが採点するのがいいんでしょうけど、20年目、30年目の芸人さんが出てくれるなかで、「誰が点数つけるの?」となったとき、やっぱり寄席に出てる芸人さんたちだし、お客さんを笑わせることに命をかけてる人たちだから、お客さんに審査をしてもらうのが一番。「誰のための漫才か」と言ったら、お客さんのための漫才だから、お客さんに審査してもらうのが理にかなっているのかなと思いました。

――会場のお客さんは1、2、3点を持っていて、先行・後攻それぞれのネタを見た直後に審査するかたちでしたね。

日置 どういう採点の仕方にするのかは、スタッフ全員で侃々諤々(かんかんがくがく)としていました。当初はどちらが面白かったのか、札を上げる方式も考えたんですが、そうすると、大差がつく場合があるんですよね。僕はそれはすごくざんない(むごい)ことだと思っていて。同じぐらい面白かったのに、大差がつくなんてリスペクトに欠ける気がしたんです。「では、何点だったら一番気持ちいいのか」ということで、何回もシミュレーションして、最終的に現在のかたちに落ち着きました。

――どんな点数でシミュレーションしたんですか?

日置 いろんなパターンを考えたんですが、たとえば、1〜10にすると、偏った人がいた瞬間にバランスブレーカーができちゃう。よく「4、3、2、1じゃダメなの?」と言われるんですけど、意外と4ってつけづらいんですよね。3と2で固まっちゃう。2〜0だと0はつけづらいから1に固まってしまう……とか、いろんな得点方式をやってみたうえで、1~3の3点満点にしました。

――審査のあと、お客さんにインタビューをしたというのも新しかったです。

日置 理由としてはふたつあって。ひとつは負けた芸人さんに「1ミリでも納得してもらいたいな」と思ったんです。だって、何年もかけてやってる漫才を否定されるって、屈辱的なことだと思うし、「この審査員は、ここが笑えないと思ったんだな」と知れたら、少しでもプラスになるのかなと。

それで「気分悪いな」と思う人もいるのかもしれないですけど、その納得感だけは大事にしたいと思いました。芸人さんに「適当に点数をつけられて負けたんだ」と思われるのだけは絶対に避けたかった、というのが僕の想いです。

あと、大学生のときに「集団に意志や責任感を持たせる方法」を習ったことがあって。一人に意見を言わせることによって責任感が生まれて、自分がなんでその点をつけたのか、理由付けをしながらボタンを押すようになるらしくて……。シミュレーションでも無責任に1をつけるとか「ファンだから3をつけて、この人に1をつける」ということがなくなるのがわかったので、この方式で落ち着きました。

▲「負けた芸人さんに1ミリでも納得してもらいたかった」