芸人は営業で食っている

たまには景気のいい話をしよう。

芸人になってびっくりしたのは、驚くほど高額なギャラをもらえる場合があることだ。もちろん、毎回ではないし、ギャラの波は激しい。稼ぎはそれぞれだが、テレビだけで食える芸人なんてほんの一握り。大物になれば別だろうが、俺たちみたいな場末の芸人がテレビに出ても大したギャラはもらえない。

だが、売れてない芸人ほど必死にテレビに出たがるのも事実だ。なぜかといえば、地方などの営業仕事のギャラは、とにかく破格で割がいいからだ。だから、営業に呼ばれるためにはまず、顔を売る必要がある。全国ネットのバラエティー番組に出れば、わかりやすい名刺代わりになる。ライブやショーパブでネタを磨いて、テレビに出て知名度を上げて、営業で稼ぐ。これが一番わかりやすい芸人の稼ぎ方なのだ。

俺もその例に漏れず、営業と名がつくものはどこへでも行った。

都内はもちろん、地方のお祭り、大学の学園祭、企業のパーティー、ショッピングセンターのイベント、飲み屋の周年パーティーなどなど。10分あれば人を笑顔にできる芸人は、こういう場のキャスティングにもってこいなのだろう。

呼ばれたからにはこちらも全力を尽くす。客の反応を見ながら、テッパンネタをぶつけるのか、あるいは変化球でいくか、などを瞬時に見極める。笑いが取れなかったときは、もちろん凹む。なぜなら、その営業に二度と呼ばれない可能性もあるからだ。

営業に呼ばれない芸人は生活できない。それくらい営業のギャラはとても大きい。人によるが、若手だと1ステージ1万円というものもいるが、中堅以上になると10万円〜、テレビで引っ張りだこの売れっ子になると100万以上という金額も珍しくない。

歌マネがうまい女性芸人は、客からのチップが多くなる傾向があった。歌の途中でステージから客席に降り、歌いながらお客さんの肩に手を置いたりして、客席をぐるりと歩く。特に色っぽい女性芸人だと男性客は色めき立つ。

芸人を気に入ったお客さんは「こっちこっち」と手招きして、近くに来た彼女の胸元にチップを挟んだり、千円札をはさんだ割り箸を渡す。それが1ステージごとに繰り返されるのだ。

噂によると、バブルの頃はもっとスゴかったらしい。輪っかになった万札を首にかけてくれる人もいたと聞く。おそらく、それだけで数十万円はしたのだろう。なんとも豪勢な話だ。