ピン芸人のメリット・デメリット

ギャラがいい仕事で、さらにチップをたんまりもらった日は、キャバクラに連れていってくれる気前のいい先輩もいた。地方のキャバクラのいいところは、数えるほどしかテレビに出たことがない俺たちでも、ちょっとしたスター扱いをしてくれるところだ。

気分が良くなり、遊びに行ったはずのキャバクラでネタをやったら、別のテーブルのお客さんからたんまりチップをもらったこともあった。「お金を出すから、こっちで一緒に飲みましょう」なんてことも珍しくなかった。地方のお金持ちは娯楽に飢えているのかもしれない。

ピンでやっているありがたさを感じたのはこの頃だ。コンビやトリオは笑いの幅が広がる一方、交通費や宿泊費といった経費が2倍、3倍になり、ギャラも1/2,1/3になるからコスパは良くない。

そう考えると、ピン芸人が一番だと思う。ただ、40歳を過ぎても売れず、一人で孤独と戦うことになるとは、その頃は思いもしなかったが……。

ギャラはともかく、チップなんてあぶく銭みたいなものだ。その日のうちに大盤振る舞いして使ってしまおうという人が多かったが、貯金に回すしっかり者もいた。

俺も一時期、ギャラは使ってもチップだけは貯金していた。小さい頃にやっていた500円玉貯金みたいなものかもしれない。芸人は不安定な職業だから、お金をしっかりと貯めておいたほうがいいに決まっている。芸人の苦労のほとんどは、お金がないことに起因しているのだから。

一気で稼ぐ

最後に一番儲かった営業について話そう。先輩芸人の紹介で行った、静岡県のキャバクラの周年イベントは、ずいぶんと昔のことだがよく覚えている。仕事内容は30分を2ステージ。これでギャラが10万円。

そこのキャバクラは、ネタ中もお客さんが大いに盛り上がるので、とてもやりやすい。さらにお客さんがテキーラや焼酎をステージまで持ってきて、それを一気するとチップをくれるシステムだった。

ショーで1ネタやるたびに俺の元へ酒を持ってきてくるお客さん。それを一気すればチップがもらえるから俺も喜んで酒をあおる。今ではとてもできないことだが、これがまたいい収入になった。酒を1杯飲むだけで1000円。もはや芸人ではなくホストのような状態だが、生活のため背に腹は代えられない。

その日のキャバクラ営業も、一部が終わり、二部になると記憶がほとんどないくらい酔っ払っていた。その日のお客はとてもノリがよく、どんどんステージに上がってきては俺に酒を飲ませる。

「はい、テキーラ」

途中からは味なんてわからず、ひたすら機械的に飲んでいた。これ飲めばまたチップがもらえる。それだけが俺のモチベーションだった。