消えた16万円
恥ずかしい話、営業の途中から記憶がないのだけど、ホテルに帰る途中のタクシーで、その日いくらもらったか確認したことだけは覚えている。ギャラとチップ、合わせて16万円もあった。
一晩で16万稼げる仕事などそうそうない。そのことがなんだかうれしくて、ホテルに着くと風呂にも入らず、そのままベットに転がり眠りについた。
翌朝、俺はホテルの硬いベッドの上にいた。二日酔いの頭にはモヤがかかっている。ああ、水が飲みたい。時間を確かめるためにケータイを見て、次にポケットの財布を確かめる。だが、次の瞬間、酔いが一瞬で吹っ飛んだ。
昨日もらったはずの16万がない。慌ててポケットというポケット、玄関や棚を探したが、1万円札や千円札を束にしたはずの16万円がどこにもないのだ。
ベットの下、トイレ、風呂場まで探したがどこにもない。
やってしまった……。頑張ってネタをして、飲みたくもないテキーラを一気して稼いだ16万がどこにもない。
酔っ払って道に落としたのか、あるいは誰かにすられたのか。
ショックで立ち上がれない俺。頭もガンガンと痛む。時間だけが過ぎ、チェックアウトの時間が来た。幻の16万の記憶を抱えたまま、俺は部屋を出る準備をする。
16万円を失い無一文なのだから、せめて備え付けの飲み物だけでも持って帰ろうと、ホテルの冷蔵庫を開ける。
すると、冷蔵庫の中には万札と千円札が綺麗に束になって積み上げられていた。おそらくベロベルに酔っ払った俺は、冷蔵庫を金庫だと勘違いして、大事なお金を丁寧にしまったのだろう。俺はその様子を想像したら笑いが止まらなくなった。
俺は昨夜の自分に感謝し、冷蔵庫に手を合わせて、お金を大事に取り出した。俺が身体を張って稼いだ16万円はキンキンに冷えていた。
(構成:キンマサタカ)