部下の立場になってわかった「良いリーダー」とは?

しかし、次に分隊のなかに列員として入り、リーダーの号令を聞いたときに、それまでの考えが変わりました。

つまり、フォロワーになって初めてリーダーの役割や、その良し悪しの基準を理解できたのです。

分隊行進で動くときには、各分隊員は左足から動きます。ということは、リーダーが分隊員に“どのタイミングで号令をかけるか”(左足が地面に着く瞬間か、右足が地面につく瞬間か、どちらか片方の足が空中にあるときか)によって、分隊員側からすると、動きやすさが全然違ってくるのです。

例えば、「右に向きを変え進め」という号令を出す場合、あらかじめ「右に向きを変え~」と長めの予備号令を出して、分隊員に次の行動を理解させ、心と身体の準備をさせてから、分隊員の左足が地面につく瞬間に「進め!」と短く明瞭に命令すると、分隊員は動きやすくなります。それにより、分隊全体の動きも揃いやすくなるのです。

一方、片方の足が空中にあるときに号令を出されると、分隊員側は動作のタイミングが取りにくくなり、隊の動きも不揃いになりやすくなります。

こうして私は、分隊長としてのリーダーシップと分隊員としてのフォロワーシップとを続けて経験したことにより、リーダーは、フォロワーが動きやすいときを狙って号令しなければならないこと、そして、その直前には予備命令を出して、フォロワーに対して次の動作のために心と身体の準備をさせなければならいことに気づきました。

フォロワーの気持ちを考えることの大切さや、号令とはどうあるべきか(どうすればフォロワーにとって聞きやすく、動きやすい号令になるか)など、単純に見えた分隊行進訓練には、じつは「リーダーの基本」を学ぶ要素がぎっしり詰まっていたのです。

リーダーには、フォロワーをトレーニングによって強化するなど指導者としての側面もありますが、やはり必要なときに必要な決断と行動をして、フォロワーを導くことこそが「リーダーの本質的な役割」なのだと強烈に認識できた体験学習でした。

▲部下の立場になってわかった「良いリーダー」とは? イメージ:metamorworks / PIXTA