野球の花形・エリートポジションのショートストップ

遊撃手というポジションは、野球選手としては花形であり、高い身体能力を持っていたり、チームの中心となる選手が任されることが多いポジションである。

ただ、シーズンを通して守備の負担が大きいので、怪我に強く、打撃や守備はもちろん、心技体すべてにおいて優れた選手が起用されやすい。

さらに、遊撃手は二塁手と同様にセンターラインを守るポジションなので、打球に対する広い守備範囲や深い場所から送球するために肩力が求められる。

そのため、能力的な面もあるが、華やかさもある読売ジャイアンツの坂本勇人や、現在は埼玉西武ライオンズで指揮を執る松井稼頭央、WBCでの活躍が記憶に新しい源田壮亮は、遊撃手としてシンボル的な存在だろう。

今回は、そんな野球の花形ポジション・遊撃手で活躍した選手をみていこう。

現役でありながら数々の記録を残す坂本勇人

実績だけを見ると、時代に関係なく「歴代最高遊撃手」の名に相応しいのは坂本勇人だ。

現段階で遊撃手としての出場試合数・捕殺・併殺は、プロ野球史上最高の記録を残している。また、安打数も2242本を記録(5月29日時点)。松井稼頭央の2705安打(日米通算)や、石井琢朗の2429本に迫る勢いの活躍を見せている。

攻守にわたり歴代的にトップクラスの成績を残しており、生きる伝説になっていると言っても過言ではない。

阿部慎之助や森友哉のように打撃がいい捕手が守備面で過小評価されるように、坂本も打撃がよかったがゆえに、守備面で過小評価された時代もある。

若手の頃から一歩目の判断はよく、守備範囲は広かったが、確実性がなかったため雑なイメージが先行していていた。

しかし、2012年に遊撃手の守備職人・宮本慎也に自主トレで弟子入りし、送球などを改善した。さらに2013年のWBCでは、名コーチと名高い高代延博氏の指導を受ける。2014年には、7度のゴールデングラブを獲得した井端弘和が巨人に入団。近くで技を学んだ。

その結果、守備面も大きく成長し、2015年のプレミア12では最優秀守備選手に選ばれた。

ただ、2013〜2015年は打撃が良くも悪くも“まとまって”しまっていた。その坂本に転機が訪れたのは、おそらく2015年に開催されたプレミア12だろう。坂本自身がこうコメントを残している。「この3年ぐらい普通の選手の成績で、いい選手の成績というのを残してないんで。僕はショートというポジションだからこそ、ああやって試合に出させてもらっていましたけど、周りの人たちは、もっともっと打ててやれてる選手ばっかり」。

この言葉の通り、坂本は日本代表の一流の選手たちから貪欲に学びにいった。

プレミア12では、秋山翔吾や山田哲人、筒香嘉智からアドバイスを積極的にもらいにいく。これによって坂本の打撃スタイルの幅が広がる。さらに2016年のキャンプでは、松井秀喜からの指導によって、軸足に重心を置く低く沈み込むようなフォームに改良。

その結果、2016年はリーグのみならず、球界でもトップクラスの打撃成績を残すようになった。

坂本自身も松井からの指導について「松井さんは、僕の感覚では想像しないような感覚でバッティングをされていたと聞きました。教えていただいたのは『軸足』の大事さです。軸足に体重をかける意識を変えてみました。それは今でも僕のバッティングのなかで、すごく大事なポイントになっています」とコメントしている。

松井の指導が坂本にとって、いかに重要だったかを物語っている。そして打率.344を記録し、見事に首位打者を獲得。さらに、出塁率も.433を記録して最高出塁率に輝いた。守備では初のゴールデングラブ賞を獲得した。

その後も、2018年にはキャリア最高打率となる.345を記録。2019年にはキャリアを通して初となる2年連続の3割到達はもちろんだが、セ・リーグ新記録となる開幕戦から36試合連続出塁や、遊撃手として史上初の3割40本塁打を達成し、リーグ優勝に導いた。このシーズンは文句なしのMVPにも輝く。

遊撃手のシーズン最高打率は、2010年に西岡剛が記録した.346。遊撃手のシーズン最高本塁打数は1985年に宇野勝が記録した41本塁打だ。坂本は、いずれもあと一歩のところの記録を残している。

遊撃手として歴史的な打撃力と守備力を兼ね備えているからこそ、21世紀の枠では留まらず、歴代最高遊撃手といって差し支えない選手だろう。

▲国際大会でも活躍を見せる坂本勇人 写真:長田洋平/アフロスポーツ