「空腹」が健康長寿に役立っていた

前節で述べたように今日の日本では100歳以上の人が毎年増え続けている一方、55歳以下の“若死に”も増加しているという不思議な現象が起こっています。その要因を1つ挙げよ、と言われたら、私は躊躇なく「空腹を経験したかどうか」を挙げます。

90歳以上の長寿者、つまり明治の末~大正・昭和のはじめに生まれた方々の暮らしは、粗食で、よく歩き、炊事、洗濯、ちょっとした大工仕事など、家事労働が当たり前の毎日でした。時には、さまざまな事情から空腹を余儀なくされました。

戦後の1948(昭和23)年生まれの私でさえ、中流階級に生まれ育ちましたが、1955(昭和30)年頃までは、粗食で空腹をいやというほど味わったことを鮮明に覚えています。

実は、この「空腹」が健康長寿に役立っていたことが2000年にアメリカのマサチューセッツ工科大学のL・ギャラン教授によって明らかにされました。生物が飢餓状態になると体が活性化し、体の細胞の老化を防ぎ、寿命を延ばす働きをする「サーチュイン(sirtuin:長寿)遺伝子」を発見したのです。

同教授は、飢餓状態におかれたショウジョウバエやミドリムシの寿命が30~50%も延びることを実験で確かめています。また「飽食状態にされたサル」と「腹五分の食料を与えた空腹サル」を20年間追跡調査した研究では、「飽食」サルはシワだらけの顔、薄い頭髪が目立ち、老化が進んでいることがわかりました。

一方「空腹」サルは、頭髪がフサフサでシワも少なく、CT検査の結果、脳の委縮もほとんどなく「青年の若さ」を保っていたといいます。「サーチュイン遺伝子」は、老化や病気の元凶物質とされる活性酸素の攻撃から細胞や遺伝子を守り、若々しさを保たせ、ガン・心臓病・脳卒中・糖尿病などの病気を防いでくれます。

「高」のつく病気は「食べすぎ病」 イメージ:PIXTA

「高」のつく病気は「食べすぎ病」

ちなみに、1950(昭和25)年と比べ、65年後の2015(平成27)年には、肉・卵・牛乳(乳製品を含む)など、高カロリー・高タンパクの栄養食の1日あたりの摂取量が、それぞれ約11倍・6・3倍・19倍と、驚くほど増加しています。逆に米の摂取量は約半分で、芋類の摂取量にいたっては約10分の1にまで減少しました。

つまり、我々日本人は「高栄養=飽食」のため、ガンをはじめ、心筋梗塞・脳血管障害(脳梗塞)・糖尿病・痛風……等々の生活習慣病に苦しんでいる、といっても過言ではありません。

現在40歳以上の男性の半分以上がメタボ(メタボリック症候群)とされています。「高」血糖、「高」脂血症、「高」体重……など「高」のつくものは「食べすぎ病」以外のなにものでもありません。