『サイキック』から学んだ胡散臭さを嗅ぎ分ける嗅覚

――現在、角田さんはラジオ番組『角田龍平の蛤御門のヘン』(KBS京都)でパーソナリティを務められています。この番組には、伝説の『サイキック青年団』のスピリッツが息づいています。角田さんが(北野)誠さんと竹内(義和)先生との親交ができたのは、角田さんが『サイキック』に送ったお手紙がきっかけだったと伺いました。

角田 そうです。それまでもイベントなどには行ってたんですが、メールやハガキは書いたことがなくて。でも、『サイキック』が終わるという話を聞き、いてもたってもいられなくなり番組宛にお手紙を送ったんです。すると、お二人から別々に連絡がありました。

『サイキック』が終わったあと、誠さんが謹慎される前くらいの頃に、僕が『かんさい情報ネットten!』(読売テレビ)という番組に出て、誠さんも『ミヤネ屋』(読売テレビ)に出ていらっしゃって。楽屋が近かったので挨拶に行ったら「ああ、あの手紙をくれた子か」みたいな話になって、そこからまた連絡をいただくようになったんです。

でも、僕がただの弁護士業務しかしてなかったら、その手紙は送ってなかったと思うんです。やっぱり、自分が『オールナイトニッポンR』をやってたので自己紹介できたし、『サイキック』を聴いてたからこそラジオパーソナリティをやることになったので、感謝を伝えたかったんです。

――その手紙には、どういうお気持ちを綴ったのでしょうか?

角田 自分が中学1年ぐらいの頃に『サイキック』を聴きだして、毎週日曜深夜にすがるような思いで聴き続けてたかとか。その後、司法試験を落ち続けてるときもずっと聴き続けてたんです。で、論文試験が終わったあとに京都の円山野音で『サイキック』のイベントがあるんですけど、そのときも“あと1年勉強すんの、しんどいなあ”と思いながら行くと、誠さんと竹内先生が愚にもつかない邪推と妄想、人生には必要ないけれど面白い話をなさってるんで(笑)。

――野外で(笑)。

角田 もう、脱力するというか、非常につらい精神状態のはずやのに、気づいたら笑ってるんですよね。「そういうのがあったから長い受験生活も乗り切れました。そのおかげで今、オーディションに合格してオールナイトもやらせてもらってます」みたいな感じのことを、便箋10枚ぐらいで送った記憶があります。

――『サイキック』のどんなところが角田さんの心を捉えたと思いますか?

角田 それまでは、あまりラジオを聴く習慣がなかったんです。だけど『サイキック』を聴くと、今までまったく触れたことのない、聴いたことのない話をしてたんですね。誠さんと竹内さんが、政治・事件・芸能・プロレス・宗教・下ネタ……いろんなことをしゃべってたじゃないですか。

それまでもテレビのお笑いや漫才は好きで、ダウンタウンの『4時ですよ〜だ』(毎日放送)も好きで、 ドリフも好きで、『オレたちひょうきん族』(フジテレビ)も好きやったんですけど、まったく違う種類のラジオ……でも、あれはラジオがどうっていうよりも、『サイキック』っていうものが好きやったと思うんですよ、僕は。

――すごくわかります。

角田 あんなラジオ、他にしてる人いなかったんで(笑)。で、誠さんは芸人ではあるんだけど、お笑いのラジオじゃなかったじゃないですか。ネタコーナーがあるわけでもなく、話題のきっかけとしてサイキッカーのハガキやメールを読むことはあったとしても。曲も、板井さん〔板井昭浩、『サイキック』を立ち上げたディレクター〕が選んだ1曲だけで、あとは二人がしゃべって。そこで、ものの見方を教えてもらったというか。

――特に、竹内先生の「キメウチ」「邪推」が出色でした。

角田 そうですね。多大な影響を受けたんですよ。あの番組で有害図書規制の話をしてたことがあって、そこで誠さんと竹内先生は「おかしいやろ」と言っていて。「自分らも小さい頃からエロ本とか読んでたのに~」みたいな話から、「“臭い物に蓋をする”じゃなくて、臭いもんを嗅ぎ分ける嗅覚を養うのが教育やろ」みたいなことをおっしゃっていて。まさしく、世の中の臭いものに対して「怪しいな」「胡散臭いな」「この人、信用できへんな」とか、そういう嗅覚を学んだ気がします。

――今、竹内先生は隔月ペースくらいで、誠さんもときどき『蛤御門』に出演されています。でも、お二人が揃っても当時の『サイキック』をそのまま持ち込むのはしんどいと思うんですね。

角田 はい、そうですね。

――角田さんがラジオパーソナリティを志すにあたり、「『サイキック』みたいなラジオをやりたい!」という思いからオーディションを受けられたと伺いましたが、『サイキック』そのままのトレースにならないように気をつけてることはありますか?

角田 『サイキック』では、竹内先生が『夜の窓』や『肉筆マガジン』で仕入れた芸能界の噂話を、あたかも本当のように話してましたよね(笑)。でも、僕は中学生や高校生のときでも、それをほんまやとは思わずに聴いてたんです。「竹内先生が知ってるわけないやん!」っていうね。

――はい(笑)。

角田 芸能界の中枢にいる人の噂を竹内先生が知る由もないので(笑)。僕は邪推と妄想をファンタジーとして聴いてたんだけれども、なにぶん誠さんと竹内先生の話術が巧みなので信用させる説得力があった。「あいつはああ見えてこんな人でっせ」「こんなことやってまっせ」って。虚実皮膜を楽しむのがサイキックの醍醐味だったのに、今は「これは妄想ですよ」と断らないといけないですからね。