『清原和博への告白 甲子園13本塁打の真実』『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』で知られるノンフィクション作家でスポーツライターの鈴木忠平氏が、エスコンフィールド建設にまつわる人間ドラマをまとめた『アンビシャス 北海道にボールパークを創った男たち』(文藝春秋)を今年3月に発売した。

同じく今年3月に開場し大きな話題となった、北海道日本ハムファイターズの新球場・エスコンフィールド北海道。その開場までの道のりにおいて、一筋縄ではいかない人間模様や、新球場を誘致したい札幌市と北広島市の攻防を描いている。

これまで、人物にフォーカスを当てた著作を発表してきた鈴木氏が、エスコンフィールド北海道をテーマに書こうと思ったキッカケ、作家として影響を受けた作品や、会ってみたい人などをニュースクランチがインタビューした。

▲鈴木忠平【Crunch-book-intervieW】

「なぜ北広島になったのか?」から始まった

――エスコンフィールドをテーマにした本は、おそらく誰かが書くだろうと思っていたのですが、ここまで面白くエンターテイメントに昇華できるのは鈴木さんだから、そう思いながら読ませてもらいました。

鈴木 ありがとうございます、うれしいです。

――『アンビシャス』を書くことになったキッカケからお伺いできますか?

鈴木 おっしゃっていただいたように、エスコンフィールドについての資料みたいなものは、この先できると思うんです。それを球団が作るのか、市役所が作るのかはわからないですが。僕はそういったパンフレット的なものではなくて、建物の裏にある人の関わりのような、形のないものを残したいという思いで執筆に着手しました。

そもそも、僕が一番最初に新球場に関心を持ったのは、2018年3月26日に「球場が北広島か札幌か、どちらに建設するのか?」が決定したニュースを見たときでした。てっきり札幌になると思ってたので、驚いたのを覚えてますね。北広島という土地になぜ作るんだろう、どんな人が北広島に作ると決めたんだろう、という点に興味を持ったんです。

日本ハムの関係者の方にお会いしたときに「なんで北広島なんですか?」って聞いてみたんです。そうしたら「じつは面白い人がいて…」という話をしてくださって。その“面白い人”っていうのが、エスコンフィールドHOKKIDOのプロジェクトリーダー・前沢賢さんだったんです。そのほかにも「人間ドラマがいろいろあったんだ」とお聞きしたのが、この本を書く大きな動機になりました。

――なるほど。でも、書けることが限られてくると、書籍として味気ないものになってしまいますよね。

鈴木 そうなんです。札幌市の立場もあるだろうし、書くにあたってタブーが多いのはイヤだなと思ったんです。もし、タブーなく取材させてもらえるなら、興味はあるし、書かせてもらいたいと思って、球団の方に相談しました。そしたら「自分たちも資料的ではない、そういった本を残したいと思っているので、どんなことでもお答えします」と言ってくれたので、“やりましょう!”って。

――それはいつ頃のお話ですか?

鈴木 球団と話をしたのは2020年頃ですね。

――鈴木さんの著作をいろいろと読ませていただいてますが、「敗者への視点」が誰よりも際立っているという印象があるんです。ひと言で“敗者”を定義するのは難しいですが、今作ではその立場が札幌市なのかなと。札幌市のことを書くうえで、鈴木さんが意識されたことはありますか?

鈴木 このプロジェクトは「どちらを選ぶのか」「作るのか、作らないのか」といった“決議”をしないといけないので、おっしゃったように「勝者と敗者」が必ず出るんですよ。それゆえにタブーなく、札幌市のことも、本社と球団の軋轢も書かないといけないなと思っていました。

そこで一番意識したのは、まさに「札幌市をどう描くか?」ということでした。札幌市って世間のイメージでは悪者だったんですよ。僕も取材をしなかったら「札幌市がグズグズしてるから、ファイターズが出ていっちゃった」と感じていたと思うんです。

本を書く前は“痛快なジャイアントキリングなのかな”と思ってたんですよ。それはそれで読み物になると思って取材をしてみたら、実情は違った。一番最初に前沢さんを取材したときに「僕は札幌市の秋元市長と、本当は握手をして一緒に歩いていきたかった。今もそれは変わらないし、同志だと思ってる」と言われたんです。すでに北広島に決まったあとなのに、そういうふうにおっしゃってて、それで僕が思っていたことと違うんだなと感じました。

――初めの印象が取材で覆されたわけですね。

鈴木 はい。正直、ストーリーとしては、ジャイアントキリングにしてしまったほうが簡単なんですよ。そこは実際に書くとき、揺れ動いた部分でもあります。札幌市を悪者として描いたほうが、エンタメとしても痛快ですよね。でも、実際に僕が感じてることは違ったわけです。じゃあ、“悪者を出さないでストーリーとして成立するのか?”というのは大きく悩んだところですね。

――でも、鈴木さんが書くものに信頼がおけるのは、そういったところだと思います。単なる勧善懲悪にさせない。安易な方向にするよりも、事実をしっかり描くのが大事ということですよね。

鈴木 ありがとうございます。なので、札幌市を悪者にしないとしたうえで「札幌市をどう描くか?」を考え始めました。スタジアム建設については賛否両論あったし、どちらかと言えば批判が多かったので、そっちの意見を取り上げてもよかったのですが、前沢さんの「同志だと思ってる」という言葉が、ずっと引っかかっていたんです。

だから、この建物ができたときに「じつは札幌市も建物の一部なんだ」ということが伝わるように書こうと決めました。そこから札幌市にも取材をしていくのですが、デリケートな問題ですから、市長や担当者の方に取材を受けてもらえないかもしれないな、とも考えてました。

自分が“札幌市を悪者として書かない”と決めていても、取材を受けてもらえなかったら説得力に欠けてしまう。実際、最初は「どんなことを聞くんですか?」などの事前確認がありました。でも、最終的には取材を受けてくれたんです。話を聞いて、札幌市の皆さんの思いもよくわかりました。

▲前沢さんの言葉が心の中にずっと残っているんです